SPECIAL TALK Vol.28

~大切なのは、2種類の実行。それは物事を始める実行と、始めたものを続ける実行~

金丸恭文氏 フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長

大阪府生まれ、鹿児島県育ち。神戸大学工学部卒業。1989年起業、代表取締役就任。規制改革推進会議議長代理、未来投資会議構成員、働き方実現改革会議議員、経済同友会副代表幹事、NIRA代表理事を務める。

松竹のコンテンツをローカライズして世界へ。迫本社長が見据える未来とは

金丸:ところで松竹に入社して、まず何から始めたのですか?

迫本:当時の松竹は、財務上倒れるかもしれないという非常に苦しい状況だったので、立て直すために、とにかく不良資産の処理を行いました。最初の1年半で800億円を処理しましたから。

金丸:それはすごい。

迫本:企業も国も利益を生もうと思ったら、基本的にやることは3つしかありません。不良資産の償却、有利子負債の削減、そして儲けること。なかでも重要なのは、いかに儲けるかということです。

金丸:具体的には、何を行ったのですか?

迫本:まずは映画部門の強化。当時の松竹を支えていたのは映画部門だったので、当たりそうな映画の買い付けに力を入れました。その結果、世界の歌姫ビョークが主演した『ダンサー・イン・ザ・ダーク』や『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズがヒットしました。

金丸:あれは両方とも大ヒットでしたね。

迫本:それと並行して行ったのが、不動産開発。安定した収益があってこそ良質なクリエイティブが生まれます。築地松竹ビルや歌舞伎座タワーなどを建設して、収益の柱を作るということをしていきました。

金丸:松竹には、日本の伝統芸能である歌舞伎もあります。

迫本:実は歌舞伎がしっかりとしたビジネスになったのは、この30年ぐらいなんです。とくに顕著なのは、ここ5年。本当に良質の作品を作れるようになってきました。いまや消費者にコンテンツを届ける方法は無数にあります。だからこそ、松竹にしか作れない歌舞伎や映画という独自のコンテンツが生きてくる。これからは異業種と組んだり、海外に向けて発信したりして、多角的に展開していきたいと考えています。

金丸:松竹の豊富なコンテンツがあれば、できるはずです。

迫本:日本の映画業界って、2次利用を入れても5000億円程度の市場規模しかないんですよ。そんな日本の市場でもがくより、海外にマーケットを広げていきたい。それが至上命題です。

金丸:ではグローバル展開するために、何をすべきだとお考えですか?

迫本:それは、コンテンツのローカライズです。僕は缶コーヒーが大好きで、車の中にいつも置いているんですが、こんなに豊富な種類の缶コーヒーが売られているのは、日本だけ。アメリカでは缶コーヒーを飲む習慣がほとんどありません。そんなアメリカの企業であるコカ・コーラが、日本人のライフスタイルに合わせて多くの缶コーヒーを開発し、ヒットさせている。ローカライズがいかに大切かということを実感します。

金丸:それはエンターテインメントの世界にも、当てはまると。

迫本:そうですね。なので、各国の文化や習慣に合わせて、作品をローカライズできる人材を育てることが重要です。昨年5月に、世界のエンターテインメントの本場であるラスべガスで、『KABUKI LION 獅子王』という新作歌舞伎の公演を行いました。アメリカということで、最新の映像技術を使って色鮮やかな情景や大蛇を舞台に再現し、大変盛況でした。これは歌舞伎をラスベガス用にローカライズした例です。こうした試みを、ほかの国でもどんどんやっていきたいですね。もちろん成功もあれば失敗もある。それを交通整理しながら前に進んでいけるようにすることが、僕の役目だと思っています。

金丸:オリジナルのコンテンツを有している御社にとっては、まさにビッグチャンスです。

迫本:今後はより一層コンテンツの勝負になっていくと思うので、チャンスはさらに広がりますよね。日本の伝統芸能である歌舞伎をもっと世界に広めていきたいし、映画のキラーコンテンツも作っていきたい。それに劇団新派や新喜劇も、もっと多くの人に観てもらいたい。古典的な要素は薄めずオリジナリティを大切にしながら、ローカライズを図ってグローバルに展開していく。松竹の未来はそこにあると思っています。

金丸:今後の展開が非常に楽しみです。スポーツや司法試験の勉強を通じて養われた、迫本社長の精神力と突破力の強さを改めて感じました。ハンドボールという共通点があることも嬉しかったです。本日はありがとうございました。

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