結婚できない女 Vol.1

結婚できない女:24時からの誘いに乗る女は、“立ち食いラーメン”の価値しかない

行列に並んで食べるラーメンが美味しいのは、何故か。


さとみは聞き上手で、つい喋りすぎてしまう。

生牡蠣とシャンパンから始まり『小野木』名物・海老の炊き込みご飯に辿りつく頃。亜季は、まだ消化不良となって胃もたれしている祐也事件を、洗いざらいさとみにぶちまけていた。

さとみは終始笑みを絶やさず、適切なタイミングで相槌を打ちながら亜季の話を聞いていたが、亜季が一通り話し終えると、艶々と潤った唇をゆっくりと開いた。

「…行列に並んで食べるラーメンって、特別美味しく感じるのよねぇ。」

その言葉の真意を理解しかねている亜季に、さとみは続ける。

「あれって、並んでまで食べた自分を納得させたくて、そう思い込んでいる部分が大きいと思わない?時間を費やして得たものは、価値があるって思いたいから。…そして、その逆もまた然り。」

さとみの言いたいことを理解し、亜季の胃もたれはさらに悪化する。
24時に呼び出され、ほいほいホテルにまでついていった亜季は、祐也にとって立ち食いラーメンに成り下がってしまったということ。

まるで店名も記憶に残らず、立ち寄ったことすら忘れてしまうような。

「でも私、別に祐也のこと好きじゃないし。どう思われようが…」

苦々しい気持ちを払拭したくて力なく反論した言葉を、今度はさとみがぴしゃり、と遮る。

「そりゃあそうよ、1,2度会っただけだもの。でも、好きになる可能性はあった。お互いにね。なのに、可能性の芽を自分で早々に刈り取った。」

さとみの言葉は、亜季に祐也の無防備な笑顔を思い出させた。

その残像は亜季の胸をきゅっと締め付ける。しかし、その痛みが示す感情を認めるにはもう、遅すぎた。

私も、今年こそ結婚する...!


さとみと別れ、恵比寿の自宅に戻った亜季は力なくベッドに倒れ込んだ。
1Kの小さな部屋に無造作に置かれたままの、まだ読んでいない雑誌が目に入る。

亜季と同じアラサー女子をターゲットにしたその雑誌の、表紙にでかでかと書かれた見出しを見て、亜季は失笑した。

『今年こそ、結婚する!』

日本全国に何千何万と存在するであろう、見知らぬ戦友たちの並々ならぬ決意。
勝手に仲間意識を感じた亜季は、自分だけ言い訳をしている場合じゃないぞ、と自分に喝を入れる。

「24時の誘いは、断る一択。」

誰もいない部屋でひとり呟き、亜季は大きく頷くのだった。

次週1月25日 水曜更新
男が言う「いい女」の真意とは?

※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。

この記事へのコメント

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No Name
こんな軽い女性と知り合いたい。
2018/10/02 11:072

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