SPECIAL TALK Vol.25

~若い世代は過去にとらわれないでグローバルな視点を持つこと~

人間の幅は回り道の多さで決まる。日本は人生に余裕を持たせるべき

金丸:柳川教授のお話を伺っていると、人生における回り道の大切さをすごく感じます。日本人は特に、最短距離でゴールを目指す傾向が強いと思うのですが、それが逆に、日本人の潜在能力を妨げているんじゃないかと。遠回りをしたり、時にはレールから外れてみることで、見えてくる世界が無限に広がると思うんですよね。

柳川:同感です。世界を見ると、人生の猶予期間のようなものを設けている国も少なくありません。

金丸:たとえばデンマークでは、高校から大学に進学する前に、モラトリアムがあり、ほとんどの学生が様々な環境で仕事をしてみる、という経験をしています。しかも、国外に行く人が多いんです。一方、日本は大学を卒業したら新卒で就職し、下手したらずっと同じ会社に勤める。環境の変化が極端に少ないから、やはり人間としての幅が出てこないですよね。世界有数の長寿国なのだから、もう少し時間の使い方に余裕を持たせるべきじゃないかと思います。

柳川:今は会社どころか、生きていく国を選ぶ自由もありますからね。

金丸:日本人は世界の広さから比べると、すごく狭いところに自分の人生を押し込めているような気がします。非常にもったいない。

柳川:私も子どもの頃に世界に触れたことで、日本の常識にとらわれない発想ができるようになりました。就職したのも30歳ぐらいでしたし、無理に日本のシステムに乗らなくてもいいと考えています。

金丸:日本では優秀な人ほど、大企業や役所に行きますよね。だから世界はともかく、日本だと起業家同士の競争は、大企業の出世競争より楽だと感じています。会社員は自分ではどうにもできない要因で、出世や成長が妨げられるリスクが大きい。その点、起業家は別のリスクはあるものの、自分が頑張ればどうにかなる部分が会社員に比べて格段に大きい。

柳川:みんな上司のご機嫌取りに無茶苦茶労力を使うわけですから、その力を別に使った方がいいですよね。

ブラジルで学んだ楽観的な考え方と生き方

金丸:海外生活が長い柳川教授ですが、そのなかで今に活きていることはありますか?

柳川:たくさんあります。たとえば、ブラジルでは明るさとか陽気さの大切さを知りました。

金丸:確かに陽気ですよね。まるで悩みがないようにも見える。

柳川:経済的には決して楽ではないのに、なぜか楽しい感じがありますよね。昨年、数十年ぶりにブラジルを訪れたんですが、当時どんな思いで過ごしていたのかを改めて思い出しました。それこそ中卒で肩書きもなく、勉強もまともにしていない、ブラブラしている日本人だったんですけど、ここにいれば何とか暮らしていける感があって、その安堵感にいつも包まれていました。その楽観的な考え方が、今でも自分のベースにあるように思います。

金丸:やっぱり楽観的って重要ですね。根拠がないときに、いかに楽観的になれるか。

柳川:生きていれば苦しいときもあるし問題も起こります。だけど私自身、たとえすべてを失ったとしても、何とかなるだろうって思ってるんですよ。自分の根底に楽観性があるおかげで、だいぶ楽に生きていられるような気がします。

金丸:日本はこんなに暮らしやすいのに、なぜか悲観的ですからね。悲観的な経営者ほど悲惨なものもありません。

柳川:今でもシンガポール時代の同級生に会うのですが、総じて〝生きる力〞の強さを感じます。この強さはどこから来るのかというと、たとえば子どもが病気になったとき、日本ならどこの病院に行っても大差ないじゃないですか。でも当時のシンガポールだと、そもそも西洋医学か漢方医かというところから、自ら考えて選ぶ必要があった。まずは既存のものを疑ってかかり、自分で開拓していく必要のある環境でした。そういうことを考えても、シンガポールで過ごした経験は、自分にとって大きかったと思います。

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