2016.05.20
SPECIAL TALK Vol.20起業への強い想いは仲間と、ある漫画に影響を受ける
金丸:一緒に「Co.HEY!」をやっていた仲間も、同じように就職したのですか?
髙島:はい。というのも、当時仲間内で、『サンクチュアリ』(原作:史村翔、作画:池上遼一)という漫画が流行っていたんです。
金丸:それがどう就職につながるんですか?(笑)
髙島:みんなこの漫画に、すごく感化されまして(笑)。子どもの頃、カンボジアの内戦地帯で育った日本人のふたりが、帰国し日本を変えていくというストーリーなんですけど、ふたりは腐敗しきった日本の政治を変えていこうと、ひとりは政治、ひとりはヤクザの道に進みます。それぞれ力をつけていき、最後は合流して、表と裏の社会から政治に変革を起こすという話で、最高に面白いんです。それで「俺たちも3年後に合流しよう!」「それまでは別々の世界で修業しよう!」と約束をして、技術、経営といった道に分かれて就職することにしたんです。私は経営担当だったので、就職先にマッキンゼー・アンド・カンパニーを選びました。早くから責任のある仕事ができて、成長スピードが速いと考えたからです。
金丸:それほど漫画の存在が大きかったのですね。就職後も仲間に会っていたのですか?
髙島:週末にみんなで集まって、どんなビジネスをやろうかと夜中まで議論しましたね。「ビジネスを通じて、世の中を少しでもよくしたい」「そんな事業はなんだろう」と突き詰めて考えました。そうして、生活の基本である〝食〞の問題を解決すれば、世の中の役に立てる、ということに行き着きました。
金丸:その中から、オイシックスのビジネスプランが生まれたわけですね。みなさん、食の分野には明るかったのですか?
髙島:いや、これがまったくの素人で。でも、チャレンジする意味は大いにあると思っていました。事業計画を練る上で、世界の事例をたくさん見たのですが、食品のEコマースの成功事例はなかったんです。コンサルの仕事をするなかで、日本には欧米のビジネスモデルを模倣したものが多いといつも感じていたこともあり、「世界で誰も成功していないビジネスモデルを創り出したい。日本発のビジネスモデルを世界に発信したい」と、2000年6月にオイシックスを創業しました。
金丸:創業時の仲間は、何名だったのですか?
髙島:十数人いました。『サンクチュアリ』を回し読みしていた学生時代の仲間と、マッキンゼー時代に私が一番優秀だと思っていた同僚、そしてオーガニック食材に強かった日商岩井(現・双日)からも参画してくれました。
苦労して築き上げた事業モデル。日本の家庭に変革をもたらす
金丸:食品ビジネスの経験がないなか、事業を軌道に乗せるのは大変だったと思います。
髙島:最初の3、4年は苦労の連続でしたね。(商品が)売れない、(生産者から)買えない、お金がない、の三重苦でした。特に生産者の開拓には、本当に苦労しました。東京から見知らぬ若者がやって来て、「インターネットで野菜を売りませんか?」というワケだから、相手にされませんよね。何度も何度も通って、一緒にお酒を飲んで、地道に人脈を広げていきました。
金丸:私も農政改革に携わる身として、その苦労は非常によくわかります。
髙島:そうやって最初は20品目の商品でスタートしたのですが、16年たった今では、契約農家は1000軒、取扱商品は4000以上に増えました。日本だけでなく、香港でも宅配事業を行っていますし、首都圏では実店舗を東京、神奈川、千葉に30店近く展開しています。
金丸:オイシックスの誕生によって、インターネットで生鮮食品を買うというライフスタイルが定着しました。まるで漫画のように、仲間と共に社会に変革を起こしていますよね。
髙島:ありがとうございます。以前から野菜の宅配事業はありましたが、多くは「農家を守る」ことを目的としていて、安心して食べられるとか、美味しいものを気軽に買えるといった消費者寄りのサービスは、ほとんどありませんでした。なのでオイシックスは、とことん〝消費者目線〞にこだわっています。安全性や美味しさはもちろん、便利さや使い勝手の良さを追求しています。うちの定期宅配サービスに「プレママ&ママコース」というのがあるんですが、これは妊婦の方に不足しがちな栄養素を多く含んだ食品や、赤ちゃんの月齢に合った離乳食を届けています。他社に比べて、小さなお子さんのいる家庭の利用が多いのも特徴です。
金丸:消費者が求める半歩先のサービスを提供することで、支持を得てきたのですね。
髙島:あとこだわっているのは、ネーミングですね。生産者の方は「自分がつくる野菜は日本一」という誇りをお持ちです。そういう野菜の特徴を、お客様がイメージしやすいように、たとえば桃のように甘いかぶには「ピーチかぶ」、とろっとした食感で濃厚な味のなすには「トロなす」、芯まで甘い「はちみつパイン」などと名付けています。社員が畑で感じたことをダイレクトにつけたものなんですが、どれも看板商品になっています。
金丸:確かに食べてみたくなりますね。ところで、ずっと走り続けていると、モチベーションが下がることもあると思うんですが、どうやって気分を切り替えているのですか?
髙島:実は基本的に、あまりモチベーションが下がらないんです。身体のコンディションさえ整っていれば、モチベーションは常に高止まりしています。それでも今日はうまくいかないとか、気分が乗らないなと思うときは、自分のバイオリズムをコントロールする術がいくつかあるんです。
金丸:興味深いですね。
髙島:ひとつは、漫画『スラムダンク』(作:井上雄彦)の13巻を読むこと。キャプテンの赤木が負傷して、エースの流川が孤軍奮闘する姿に燃えるんです。もうひとつは、クエンティン・タランティーノ監督の『レザボア・ドッグス』で使われていた「Little Green Bag」という曲を聴くこと。このふたつで、バイオリズムが良いほうに切り替わります。
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