煌びやかに、艶やかな光を放つ国・シンガポール。
ある人は日本ではもう味わえないようなバブル時代の勢いを求めて旅立ち、また別の人は憧れと夢を持ってシンガポールへ向かう。
そんな大人が恋する国、シンガポールに待望のF1シーズンがやってきた。
世界で類を見ないナイトレースを観戦しながら、世界中のセレブが集う華やかなパーティーが夜な夜な繰り広げられる。 夢と現実の狭間にいるような、街全体が輝く大人の極上の遊び場になるこの季節。
美容関連会社の広報を務め、ちょっぴりミーハーな真美31歳。幼い頃からF1が好きで、 5年連続で観戦を果たすIT会社経営の田中修二39歳。
F1に魅せられた二人は2年連続でシンガポールにやって来たが、 過去の経験から結婚に踏み切れない修二。そこに同じIT系の新星・小野寺慎吾が現れ真美に近づいてくる…。
シンガポールGPの誘惑Vol.1:華やかなVIPパーティーの裏で繰り広げられる危険な恋のレース
土曜日
On Saturday
AM 10:30
「ここはね、レーサーが多く泊まっているから遭遇率が高いらしいの」
真美が妙なヒソヒソ声で話しかけてくる。緑に囲まれて落ち着いた雰囲気がハイクラス感を醸し出しているリッツカールトン・ミレニアに行きたいという真美のリクエストに素直に従い、今朝のブランチはここにした。
「イケメン出没しないかなぁ」
クロワッサンを頬張りながら真美はそわそわ落ち着きがない。真美の頭の中はイケメンレーサーのことで一杯のようだ。
「修二もイケメンだから大丈夫よ(笑)」と心ここにあらずなフォローを受けながら、昨日会った慎吾のことをふと思い出す。
あれだけ可愛がっていたのに、突然目の前から消えた後輩。
資金提供云々だけではない。じつは修二の前の嫁は、慎吾と付き合っていたのではないかと思っている。当時、周囲からのふたりで歩いている目撃情報もあり、慎吾が急に連絡をよこさなくなった時期と前の嫁が離婚を切り出した時期もほぼ一緒だった。
いま慎吾はシンガポールに住み、 成功しているらしい。その慎吾が真美に対して向ける異様な目つきを思い出し、何だかイヤな胸騒ぎがした。
「今夜は絶対『ポディアムラウンジ』と、『ブドワール・ノワール』に行きたいなー。すごく煌びやかで楽しいんだって。でもその前にマーライオンも見とかなきゃいけないし、本当はセントーサ島にも行きたいんだよね。って、修二、聞いてる? 」
真美の声でふと我にかえったあと、それは現実に起こった。
「あれ、あの人修二の後輩の人じゃない?」
その視線の先にはいま最も会いたくない男・小野寺慎吾がいた。お前はどこにでも現れるのか…!?
「修二さん、よく会いますね。彼女さんですよね? 紹介して下さいよ」
挨拶もしないうちに開口いちばんで真美の顔を見る。
「お綺麗ですね」
真美に笑顔で会釈をする慎吾を見て、どうやったらこんな性格になれるのだろうかと不思議に思う。元嫁だけでなく、真美まで狙うコイツの魂胆は何なのか?
その時、修二は気がついた。こいつは宣誓布告しにやって来たのだ。だったら正面から受けて立ってやろう。この瞬間から、目に見えない修二と慎吾のバトルがスタートした。