港区ラブストーリー Vol.1

2007年。『天現寺カフェ』から始まる、“港区ラブストーリー”は突然に。


8月のある日、菜々子と映画に行く約束をしていた土曜日に、彼女の体調不良でドタキャンされた。仕方なく一人で観に行こうかとも思ったが、なんとなく誰かと話しがしたくて、当日に誘ってきてくれそうな相手を考えた時、潤のことを思い出した。

彼に特別な興味がない分、明るい時間に会うことも特に抵抗はなかった。ちょっと意地悪心も働いて「今からなら時間あるけど。お茶でもどう?」とmixiからメッセージを送ると、10分もしない間に返事が来た。

「やった!じゃあ、行きたいお店があるんだ」と言って彼に指定されたのは、6月にオープンしたばかりの『天現寺カフェ』だった。


「私もここ、来てみたかったんだ」とさとみが言うと、潤は嬉しそうに笑って、良かったと独り言のように言った。

潤は最初の印象とは違い、思っていたよりもよく喋った。甲子園で注目を浴びているハンカチ王子のことや、今年から始まった東京マラソンに来年は出ようと思うとか、ドラマ「ハケンの品格」の主人公のようなスーパー派遣社員が自分の会社にもいるんだよと言ったかと思えば、少し真面目な顔になって、秋からついにスタートする郵政民営化への持論も軽く聞かされた。

一通り彼の話しを聞いていたら「あ、ごめん。緊張するとベラベラ喋っちゃうんだ」と言って急に黙ってしまった。「ちょっと極端すぎるんだけど」とさとみが笑って言うと、潤は改まった顔で言った。

「俺、さとみちゃんのことすごくタイプなんだ。あの日に感じた事、今日確信したよ。」

「え?」

「やっと出会えた気がするんだ。運命の人に。」

さとみは言葉を返せないまましばらく固まってしまった。頭の中ではMISIAの「Everything」が響いていた。

次回、さとみのピンチを潤が救う!?

※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。

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