港区ラブストーリー Vol.1

2007年。『天現寺カフェ』から始まる、“港区ラブストーリー”は突然に。


その夜、麻布十番にある老舗の大衆居酒屋『山忠』のカウンターで、二人はビールを喉に流し込んでいた。今日はこの賑やかな店で、瓶ビールを飲みたい気分だったのだ。

菜々子は、さとみを励まそうと最近の残念だった食事会での出来事を、面白おかしく話してくれた。菜々子の話は本当に面白く、何も気にせず思い切り笑いながら、彼女に本当のことが話せないことを、さとみはまた後ろめたく思うのだった。

「結婚はしたいけど、恋愛はしばらくいいかな。次に付き合う人と結婚したいから、相手選びも慎重になっちゃうんだよね…。」

ふと、さとみが呟くと、菜々子も大きく頷いた。26歳になり、友人たちのプロポーズ報告が増えて、結婚をリアルに意識せざるを得ない年齢になった事を突きつけられる。

3本目のビールを飲んでいる時、お手洗いに行こうと立ち上がったさとみは、ついよろけて隣に座っていた男性の肩を思い切り掴んでしまった。慌てて謝り、そそくさとその場を離れ、お手洗いから席へ戻ると、その男性と菜々子が楽しそうに話をしていた。

席に戻ると「ちょっと、もう酔っちゃったの?」と菜々子がご機嫌な様子で声をかけ、「さとみがよろけてたから、こちらの二人が心配してくれてたよ」と言った。菜々子の視線の先を見ると、さとみの横に座っていた同年代らしい男性二人が爽やかな笑顔を向けてきた。

その流れで、お互い自己紹介をすると、彼らは潤と和也と名乗り、港区のさくらテレビに勤める同僚で二人とも24歳だと言った。業界人らしく、ノリが良くて顔も悪くなかったが、彼らが年下と知るとさとみと菜々子のテンションは一気に下降した。

二人とも3歳以上歳の離れた相手としか付き合ったことがないのだ。24歳なんてまだ大学生気分が抜け切れていない男の子としか思えない。だが、潤と和也はなぜかやたらと食いついてきて、連絡先を聞いてきた。

「また次に会ったら教えるよ」とあしらっても「じゃあマイミクになってよ」と言って引かなかったため、4人でmixiのアカウントを教え合い、その日は別れた。さとみが麻布十番から歩いて7分のマンションへ帰ってmixiを見ると、潤から早速メッセージが届いていた。そこには、今度は二人で飲みに行こうと書かれていたが、さとみは特に嬉しいとも思わず、すぐには返信しなかった。

やたらとテンションの高い和也と、口数があまり多くなかった潤。性格は潤の方が良さそうだったが、顔だけだと和也の方がさとみのタイプだった。潤は目鼻立のしっかりした顔に、細くて濃い眉毛を持っており、中性的な顔が好きなさとみには、少し濃すぎたのだ。

その日以降、潤から何度も食事に誘われたが、なんとなく気乗りがせずに毎回断っていた。潤は南麻布に住んでいるため、ちょっと飲みたい時なんかに丁度良いご近所飲み友達になれそうだが、年下の彼にはやはりどうしても興味が湧かなかったのだ。

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