東洋経済・東京鉄道事情 Vol.11

「座って帰りたい」を叶える!京王線が仕掛ける新たな通勤列車とは?

クロスシートの状態。車内にはドア上のほか横向きにも液晶画面の案内表示器を設置する(提供:京王電鉄)

現在、京王線を走る電車は全てロングシートで、同社によるとクロスシート車両の登場は戦後初となる。ロングシートとクロスシートの両方に転換できる座席は、関東の大手私鉄では東武東上線の「TJライナー」に使用される50090型電車が採用しているほか、西武鉄道も新型車両に導入する予定で、関東では3例目となる。

室内はブラウンを基調としたインテリアで「有料座席を利用する方への付加サービス」(同社)として電源コンセントを設置。コンセントは壁面の足元付近に設置する予定で、個数などの詳細は現時点では未定だが、壁際に座席が並ぶロングシートの状態では使用できない。このほか、車内には空気清浄機や無料の公衆無線LAN設備も設置する。

ロングシートに転換した状態(提供:京王電鉄)

また、車内に設置する液晶画面の案内表示器は、ロングシート、クロスシートのどちらでも画面が見やすいよう、ドア上に加えて通路上に横向きにも設置する。JR山手線の新型車両E235系は液晶画面を増やして車内の広告を減らしているが、この車両の広告がどのようになるかは決定していないという。

外観は、窓の下に赤と青のラインを入れたこれまでの京王線車両とは大きく変わり、窓上に赤、窓下に青のラインを入れたデザインに。正面もこれまでの車両はアイボリーだったが、新型車は黒を主体としたカラーリングで、他の車両との違いを明確にする。車両の製造メーカーはJR東日本グループの総合車両製作所で、車体はステンレス製だ。

座席指定列車の運行開始に向けた投資額は約100億円で、5000系10両編成5本の新造費用のほか、座席指定システムの導入費用も含まれる。

京王線で現在走っている電車。8000系(右)と9000系

増える「座れる通勤列車」

近年、鉄道各社では「座れる通勤列車」の導入が活発化しており、昨年12月には京急電鉄がこれまでの夜間の下り列車に加え、朝方の上り列車として「モーニング・ウィング号」の運転を始めたほか、この3月には東武東上線で座席定員制列車の「TJライナー」も朝方の上り列車の運行を開始する予定だ。

各社が「着席保証型」の通勤列車を運行するのは、利用者へのサービスや収益増はもちろんだが、人口減少社会に突入する中、快適な通勤を提供することで沿線に利用者をつなぎとめる狙いもある。

京王電鉄と並行するJR中央線では、2020年度に快速電車にグリーン車を連結する計画が進んでいる。京王は座席指定列車の導入について「中央線への対抗ではなく、利用者アンケートで要望が高かった着席のニーズに応えることが主目的」と説明するが、利用者から見れば数年後には新宿~八王子間で「座れる通勤列車」がサービスを競うことになる。

また、橋本方面への相模原線と並行し、多摩ニュータウンと都心を結ぶルートとして競合する小田急多摩線は、今月のダイヤ改正で東京メトロ千代田線との直通列車を増発し、利便性の向上を図る計画だ。京王の座席指定列車導入で、多摩地区を走る鉄道のサービス競争が加速しそうだ。

著者
小佐野 景寿 :東洋経済 記者

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