東京結婚式明細 Vol.1

東京結婚式明細:主役は義母!?玉の輿の高すぎた代償

結婚式は女たちのマウンディングの場とも化す


千里の結婚式場は、都内の日系の老舗ホテルだった。色白で、派手ではないが上品で柔らかなオーラを纏う千里は、きっとウェティングドレスも映えるだろう。私の結婚式に来てくれた時は、明るいグレーのワンピースにaccaの髪飾りをセンスよく身につけていた。いつもオシャレだった千里は、今日はどんなドレスに決めたのだろう。

私はこの日のために、FOXYの春らしいパステルグリーンのドレスと、マノロのベージュのパンプスを新調した。あまり出番のない大粒のパールたちも首元で嬉々として発光している。結婚式は大好きだ。全力で着飾れる大義名分でもあるのだから。

待合所では、久しぶりに集合した女たちが皆楽しそうに近況を語り合っていた。親しみのこもった笑顔を浮かべながら、しかしお互い頭から足の先まで全身を素早く鋭く観察し合うようなやり取りは滑稽だが、そんな和に加わりながら人間観察をするのも私は嫌いではない。

「沙織、千里の旦那、見たことある?」

クリクリと大きい色素の薄い瞳に意地悪い光を浮かべながら、チャペルで朋子が囁いた。朋子はキャリアを選んだ女だ。元々は金融の一般職でのらりくらりとOL生活を楽しんでいたが、気づけば総合職に転向してバリキャリの道に進んでいた。

いつも強気だった彼女にはキャリアが性に合っていたようで、収入も増え、独身貴族を楽しんでいるという噂を聞く。今日はCHANELの新作ツイードのスーツにジュゼッペザノッティのクロコダイルヒール。攻めの派手さが、華やかさと転換されるのはこの種の女だけだろう。

「取り柄は金だけだってね。」

バリキャリの、特に独身の女たちは、どうして結婚を悪いもののように言うのだろう。夫が金持ちの場合は、特に。

しかし、「僻みにしか聞こえないから、そんなことは言わない方がいい」などとは口が裂けても言えないのだ。

やっと式が始まり、入場した白いタキシードの新郎の姿には衝撃を受けた。

まるで相撲取りのように、物凄く太っていたのだ。饅頭のように膨れ上がった顔の中には目鼻口が埋もれ、薄くなった額に汗をかいているのは遠くからでもよく分かった。「千里は外見は捨てたらしい」と数人から聞いていたが、これほどとは思っていなかった。朋子が囁かずにはいられなかった気持ちが理解できた。しかも10歳も年上だというのだ。

そして私は、ようやく入場した千里の姿にもっと衝撃を受けた。新郎とは真逆の華奢な顔と体に、生気のない表情。その上に塗りたくられた厚化粧が浮いていた。控えめで上品なはずの千里の目には分厚い付けまつ毛がどっさりと乗せられ、カラスの羽のようだった。そして、何よりも驚いたのはドレスの趣味の悪さだった。

この記事へのコメント

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No Name
朋子さん、いくら高価な靴でも結婚式に殺生を連想させるクロコダイルのヒールはダメでしょう。
バリキャリだったらそこまで気を配らないと。
2017/09/18 22:3537
No Name
このライターさんもう今はいらっしゃらないですね。とても面白いし文章も秀麗です
2019/07/11 08:407
No Name
思わず「呪われた家」の沙織、宗次郎、宗次郎の母の千鶴子を連想してしまいました 😨
2019/11/14 11:296返信1件
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