2016.03.21
シンガポール・ラブストーリー Vol.4前回までのあらすじ
34歳の女性誌編集者・小西梨花は、8カ月間グレーな関係を続けていた健二についにフェードアウトされて傷心中。梨花を心配した友人の真希がシンガポール旅行に誘ってくれたが、真希がインフルエンザで来られなくなってひとり旅をすることに。そこで偶然出会ったのが商社マンの佐野 誠。梨花はチリクラブ食べたいがあまり、自分から佐野 誠を食事に誘う。
チリクラブの店で互いの仕事やシンガポール事情について盛り上がったふたり。そしてその後行ったバーで、梨花は佐野 誠に失恋を励まされ、次第に元気を取り戻す。しかし帰り道、佐野 誠は突然、梨花のカラダに触れて好意を伝えてきたのだった。
逃げるようにひとりホテルに戻った梨花だったが、翌日、佐野 誠からのメールを読み、もう一度彼に会おうと決める。その日はお互いの恋愛観を話しあい、楽しい時間はあっという間に過ぎて梨花はホテルに戻った。すると突然、忘れようとしている人、健二から久しぶりの連絡が入ったのだった。
シンガポール・ラブストーリー vol.1 34歳・失恋女、傷心のひとり旅で思わぬ恋の予感
シンガポール・ラブストーリー vol.2 イケメン商社マンからの速攻アプローチは甘い罠?
シンガポール・ラブストーリー vol.3 34歳まで独身でいる女性が陥りがちな恋愛体質とは?
私への返信がないまま、埋もれるように下においやられていた「健二」というユーザー名が、ごぼう抜きでトップに出てきた。そのLINEのメッセージは、開かずとも文面がすべて読めるものだった。
“梨花ちゃん、元気?”
なんてことない質問なのに、答えがわからない。少なくとも「元気」と答えては、時計の針を逆戻しするだけのような気がした。実際、このメッセージを見たら、なんだか胃が痛くなってきたので元気ではない。
開かないわけにもいかず、メッセージを既読にし、私は初日に撮ったマーライオンの写真を送った。まずは写真で逃げた。
“お、シンガポールっぽい”
すぐに、その通りな返事が返ってきた。そして
“帰ってきたらごはん行こうか”
と続き、私はそのときこれまでにない行動に出る。健二さんに電話をかけてみようと思ったのだ。待ち合わせ以外などで自分から電話をしたことは一度もない。誘いの返事を言いたいとか、声を聞きたいとかでもなく、何か挑戦するような気持ちだった。
「梨花さんみたいな人は、もっと優位でいればいいと思う」
誠さんのあの台詞を、急に思い出していた。深夜1時。普段なら仕事が終わりちょうど帰宅したくらいの時間で、まだ起きている。よく終電で健二さんの家の近くまで行き、そこからバーなどでまた待って会ったりしたものだ。合鍵があったら楽なのにとも思ったけれど、待っている時間すら楽しかった。
片想いの怖いのが、時間や労力をかけた分だけさらに思い入れが強くなり、それを無駄にしまいという気持ちが奥底にこびりつくことだった。大学受験みたいに努力すれば報われるわけでもないのに、どこかでそう信じてしまう。固執と恋は紙一重だ。
通話のボタンを押す。スピーカーにしていないのに、呼び出し音がホテルの部屋に響いていた。5回ほど呼び出し音が鳴り、その後
“今は電話に出られません。後でかけ直します”
というショートメールが届いた。
それを見て驚いたのが、自分がそこまでショックを受けていないということだった。いままでだったら、こういったことにいちいち落胆していた。すごく近い過去、4日前でもダメージは大きかったはずなのに。
そういえば初めのころ私の家に健二さんが来たとき、同じく深夜1時くらいに彼の電話がなって、「電話だよ」と言ったら「アラームだから」と言われたことを思い出した。電話は連続で長く3回に分かれ鳴って、出るまでかける気概を感じた。いま思えば冗談みたいな話だけれど、そのときは、やっぱり他に誰かいるのかなと本気で落ち込んだものだ。でも落ち込むだけで、本当のことを知る勇気はなかった。
それをもう何年も前のことのように感じながら湯船に浸かり、メイクをきっちり落としていく。明日は誠さんがおすすめしていたエリア、ティオン・バルに行こう。美容パックをしてベッドに入り、そんなことを考えているうちに眠りに落ちていた。
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