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  • シンガポール・ラブストーリー Vol.2

    シンガポール・ラブストーリー:イケメン商社マンからの速攻アプローチは甘い罠?

    半年以上恋人になれない曖昧な関係で、最終的にフェードアウトされたことまで言うと

    「ああ、いま流行りのフェードアウトね。恋人じゃないなら“別れよう”とも言えないからなあ」

    と、聞き覚えのあるリアクション。これって万国共通の悩みなの!?

    「“好きだからつき合いたい”って言えばよかったのに。30以上の女性って、重いオンナにならないことを優先するけどどうして?いつまでもオトコを泳がせていたら、それこそ時間がもったいない。中国やシンガポールの女性は無駄が嫌いだから潔く聞くらしいよ。梨花さんみたいな人は、もっとマイペースになって優位でいればいいと思う」

    それがそう簡単にはいかない。好きなほど追いかけ、追いかけるほどうまくいかない。

    「私、仕事も普段の生活もすべてマイペースなのに、恋愛だけはどうもマイペースになれなくて……」
    「さっきチリクラブの店で、最後、蟹味噌の入った甲羅にチャーハンを入れて食べていたよね(笑)。強欲で自由な人だなと思った」

    いつもよく見ている人だ。ちなみに甲羅をもらう許可はとった。

    「でも、僕はそれを見てて楽しかった。恋愛もそれくらい気ままにできたらいいのにね。もちろん、そもそもオトコの方が女性に気を揉ませないようにうまくやる必要があるんだけど」

    タバコの煙をゆっくりとはきながら言う。健二さんの吸い方と少し似ていた。

    「私、今回のこと忘れられるかな?」
    「大丈夫だよ。君のことを大事にしなかった人のことを、絶対に君は忘れられる」

    いつからか誠さんは私に対して敬語じゃなくなっていた。

    「その代わり、いまは友達や仕事相手や家族とか、君のことを大事にしてくれる人たちとの時間を大切にしていればいいじゃない。そうしているうちにその男のことは忘れて、いいことがやってくる」

    確かに私は仕事にも友達にも恵まれていて、恋愛以外に悩みはない。正確に言えば、悩まない。

    「もしずっと忘れられなかったらどうなるんだろう?」
    「うーん、爆発しちゃうとか(笑)。忘れられなかったらストレスを引きずり続けることになるから。でも、人は失恋くらいは忘れられるようにできてる。大丈夫!」

    歯切れがよかった。まさかシンガポールでこんな風に励まされると思わなかった。

    『1 Altitude』をあとにし、私たちは夜の街を15分ほど散歩した。するとチャイナタウンに近い“アンシャンロード”に出て、そこは両脇にセンスのよいバーが並んだノスタルジックさもある道だった。

    「私、ここはまた来たいなあ。すごく好きな雰囲気」

    と言った瞬間、誠さんの手が私の手に触れた。最初は偶然かと思い反射的に離したけれど、2回めはぎゅっと握られて、私は嫌というよりむしろ安心してしまった。男の人と手を繋いで歩いたのは久しぶりになる。

    そして道が終わりにさしかかったとき、彼は立ち止まり突然私を引き寄せた。

    「ちょっ……」

    触れるか触れないかギリギリの力加減で、私の腰に手をまわす。

    「梨花さんはあと3日しかここにいない。なら10倍速い展開で口説きたい」

    数10cm先にあるその口からは、いままでかいだことのない、南国のフルーツみたいなタバコの香りがした。

    次回予告(3月14日公開予定)
    急に迫ってきた佐野 誠に対し、梨花はこのあとどんな態度をみせるのか?これは34歳傷心オンナにつけ込んだ単なるアバンチュール?シンガポールの夜に巻き起こった急展開。

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