浮かれたところ一切なし。シンプル イズ ベストなこのカレーたちこそが、東京の名物カレーだ!

玉子入りムルギー。エバミルクでルウに波形を描き、茹で玉子にはひと筋のケチャップ。フルーツや香辛料を煮詰めて作る自家製チャツネもポイントだ

誰にも真似できない孤高のカレー
『ムルギー』の"ムルギーカレー"

平日の昼前、開店時間を回った途端、次々と訪れる客。すぐに半分以上の席が埋まる。「玉子入り」、「僕は大盛りを辛口で」。彼らのお目当ては一様にムルギーカレー。山のように盛られたごはん、コクある苦みと刺激的な辛さが渾然一体となったルウ。一度、食べたら忘れられない味だ。

それにしても驚くのは層の幅広さ。若い男性のひとり客はもちろん女性同士のふたり連れ、年配の夫婦、サラリーマン。皆、魅了されてしまっているのだ。「味は変えてないつもりですけど」そう言って笑うのはムルギーカレー発明者を父に持つ長女。今は妹さんとふたりで店を切り盛りしている。

店は百軒店の坂を上り切ったところに位置する

ムルギーとはヒンディー語で鶏肉。継ぎ足し継ぎ足しで野菜やスパイスと一緒に長時間煮込み続けているため、原型はほとんど留めていないが旨みはしっかり活きている。亡父の跡を継ぎ、支店も一切出さず、この場所だけで供されてきた秘伝の味だ。

「久し振りだけど、美味しかったよ」

先ほどの年配夫婦がそう言って店を後にする。それは、こちらも思わず笑顔になる幸せな日常の光景だ。

カレーライス。ルウは2、3週間分を一気に作って寝かせ、たまねぎと豚肉から取ったスープと合わせ、さらに馴染ませる。非常に手間がかかる

レトロな空間で食べる優しいカレー
『万定 フルーツパーラー』の"カレーライス"

初代、主人の父ですけど、定次郎と言って果物屋の『万惣』さんで修業していました。その頃の慣例に従って、独立する際、万の字を貰い、屋号を『万定』としたんです」。

万定の果物屋としての創業は大正3年。今は閉店してしまったが、本郷通り沿いの一角に、その建物は残されている。フルーツパーラーが開店したのも「果物屋と同時期だった」とのことで、およそ一世紀にも及ぶ、暖簾を守っているのが外川喜美恵さん。カレーの誕生は昭和30年代だ。

店内の巨大ミルは昭和9年米国製レジスターとともに今も現役

「学生さんがたくさんいらっしゃるようになって『お腹いっぱいになるものを』と。それで主人が考えたんです」

そのカレー、まろやかでサラサラ、ガツンと苦みが効いていてクセになる味。今から半世紀も前に考案されたレシピとは思えないほど、個性的だ。「食いしん坊で食べることが大好き。鰻と決めたら一年間、毎日食べ続けちゃう、そんな人でした。カレーもいろいろ食べて自分なりの好みを研究したんじゃないかしら」。

亡き2代目ご主人の遺志を受け継いで、カレー作りは今、喜美恵さんの仕事。小麦粉がサラサラになるまで時間をかけて炒め焦がし、グルテンをなくす。そこが最大のポイント。「ハネて火傷をしたり、本当に大変(笑)。けど、『大人になって、苦みの旨さがやっとわかった』っておっしゃる、ご年配の方もいるんですよ」。通えばハマる魔性のカレーだ。

※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。

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