渋谷の奥はグルメの聖地!美食巡りに行きたい名店10選

タスマニアサーモンの瞬間燻製と夏野菜、温泉卵。「6800円の献立」より。進化を続けるスペシャリティ

かりそめの恋には相応しくない熟成途上の皿。『シャントレル』

代々木上原の駅を降りて、東に少し戻る駅前の道。ちょっとだけ蛇行するそれを5分ばかり歩くと、右手にほんのりとオレンジの灯りが見える。「慣れ親しんだこの町でしか、店を開くつもりがなかった」

2010年末、7年務めた『ブラッスリー・ラルテミス』料理長を辞した中田雄介氏が、代々木上原『シャントレル』で独立した。ドアを開けると目に飛び込むのはインドネシア産チーク材のカウンター、右手奥にオープンキッチン。手前にサービスマンの動線を取り、厨房は一段奥まった場所に位置する。

椅子に座るとほどよい距離に中田氏の姿が目に入る。彼の勝負時の顔がそこにはある。

川俣シャモのテリーヌ。「6800円の献立」より。メインで使わない部位を丁寧に下処理し、余すところなく料理する。クレープで巻いて軽やかさを出した

「見た目の華やかさより、実直な味の良さ、直球のアプローチが持ち味」と自らの個性と立ち位置を再確認した中田氏が店名に選んだのは、フランス・オーベルニュ『レジス・マルコン』修業時に出合った、シャントレル。秋から冬に連日、きのこ狩りに出かけた山で、雪深くなる12月まで力強く生き抜くこのきのこに、自分を重ね、目標を思った。

青山『ラ・ブランシュ』田代和久氏はじめ、厳しい師匠の下で薫陶を受けたという点では、中田氏はある意味、旧い世代に属するのかもしれない。時に打たれ、時に褒められて得た血肉があるからこそ、緩急をつけた料理が提供できる。

いちじくの白ワイン煮、シャンパンのグラニテ添え。「4800円の献立」「6800円の献立」はいずれもデザートとコーヒー別(¥1,200)。「飲みたい人、デザートで締めたい人、様々だと思うから」と中田氏

「まだまだ、『シャントレル』としての料理の完成形には至らなくて」と、彼は少し顔を曇らせるが、きっと1年後だって、同じことを言うだろう。例えば「タスマニアサーモンの瞬間燻製」が時を追うごとに少しずつ進化しているのは、その象徴だ。
ゴールはなくて、完全はなくて、少しずつ変化して、ゆっくりと熟成して。

だからこそこの店に誘っていいのは、その変遷を共有したいと心から願う相手だけ。かりそめの恋には似合わない。そんなレストランが久しぶりに、東京に現れた。

夕暮れの町に浮かぶ『シャントレル』

店の顔であるカウンター席からオープンキッチンを臨む

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