SPECIAL TALK Vol.90

~トレーニングの常識をアップデートさせ、“美尻”を切り口に人びとを健康にしたい~

金丸恭文氏 フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長

大阪府生まれ、鹿児島県育ち。1989年起業、代表取締役就任。

トレーニングを通じて、脳の使い方も鍛えられる

金丸:岡部さんはメンタルにも働きかけたいということでしたが、どのようなアプローチをされているのでしょう?

岡部:「トレーニングで自分の体を変えることができた」という成功体験が自信をつける、なんて話がありますが、私は違うと感じています。結局、体の表面を変えても、心を強くすることはできない。私は、変えられないものは変えられないと自分を認めてあげることも必要だと思います。コンプレックスは誰にでもあるものですから、変えられない部分があることを受け入れ、そこに悩むのではなく、変えられる部分にフォーカスして努力していくのが、よいのではないでしょうか。自分を受け入れることができた時、自信に繋がります。トレーニングにおいても、肉体が変化することではなく、「自分で自分をコントロールする」ことを繰り返し練習して初めて、心が鍛えられると考えています。

金丸:なるほど、メンタルトレーニングでもあるんですね。そもそも、トレーニングは「正しいフォームで行う」という大前提がありますが、なかには回数をこなすことばかり考えて、最後のほうはフォームがぐちゃぐちゃになっている人もいますよね。

岡部:それだと鍛えたい筋肉にちゃんと効かないし、怪我にも繋がります。特に男性の場合は、筋力があるのでごまかしてしまいがちですね。

金丸:ごまかさないためには、何が必要なんでしょうか?

岡部:実は、頭を働かせることが欠かせないんです。まずはインターナルキューイング、つまり脳からどんな指令を出して体を動かすかを考え、実行することが重要なのですが、体の構造を知らなければ、どんな指令を出せばいいのかわかりません。だから私は「キレイな体になりたい」という人にも、模型を見せながら「この筋肉はこの骨にくっついていて、ここを曲げるときにはこの筋肉が縮みます」というところから説明しています。

金丸:アスリートの教育みたいですね。人によっては、「いきなり難しい話が始まった」と嫌になるかもしれない(笑)。

岡部:でも、それが必ずいい結果につながりますから。

金丸:ちゃんと意識して体を動かすと、やはり結果が違ってくるのですか?

岡部:違いますよ。たとえばダンベルを上げようと意識したときと、ただ肘を曲げようと思ったとき、意識せずに腕が曲がったときでは、筋電図が全部違うんです。

金丸:えっ、腕が曲がるという結果は同じなのに、差があるんですか?

岡部:もちろん。そして、トレーニング中のきつい瞬間を乗り切るときこそ、脳を働かせないといけません。頭のなかにもうひとりの自分を登場させて、自分を励ます。それができるようになれば、トレーニングだけでなく、仕事でつらいときや人生で壁にぶつかったときも乗り越えられます。

金丸:私もそれなりに修羅場をくぐってきたので、もうひとりの自分のイメージはよくわかります。でも、そういう力って、身につけようと思えば誰でも身につくものなのでしょうか?

岡部:身につくようにサポートすることが、トレーナーの仕事だと思っていますね。私はフォームを整えたり、「あと何回」と声をかけたりするのは、本質的な仕事ではないとすら考えています。その人のモチベーションのスイッチがどこにあるかを探る力、そのスイッチを押すためにコミュニケーションを取る力こそが、トレーナーに求められる力じゃないかと。

金丸:なるほど。「精神を鍛える」というと抽象的ですが、岡部さんの場合、「脳の使い方を鍛える」わけですね。ほとんどの人が経験したことがないので、トレーナーとしての腕の見せどころですね。

岡部:どんな人であっても、必ずスイッチはあるはずで、それを押すことができれば脳を使って考える力を働かせられるはずです。

金丸:夢を見るのも、夢を実現させるためにいろいろな手段を試して、失敗を繰り返しながら挑戦し続けるのも、全部頭を使うじゃないですか。

岡部:そうですね。日本の教育って、頭を使って考える力を育てるのが苦手なのかな、と思うことがあります。たとえば日本の計算ドリルって「1+1=」という式が書いてあり、「2」という答えを書かせますよね。でも北欧だと「5」という答えが書いてあって、「1+4」でも「2+3」でも合っていればすべてが正解になる。

金丸:「答えはひとつ」と教えるのか、「目標が同じでも道はいくつもある」と教えるのか、その違いは大きいですね。

岡部:「道はひとつだ」と思い込んでいたら、世間の常識が本当は間違っていたとしても、なかなか正しい知識が広まりません。実は私、世の中と私がやりたいことには大きな乖離があるように感じていて。トレーニングひとつとっても、正しくない情報がフォーカスされて話題になれば、あたかも正しい情報のように発信されてしまうことに、ある種の危機感を覚えています。

金丸:確かに今日お話を伺って、同じことを感じました。トレーニングや栄養学の分野って、すべてが産業化されているので、それをいきなりひっくり返すことは難しいかもしれませんが。

岡部:私にできるのは、「これはちょっとおかしいんじゃないかな?」と思っている人に働きかけることだと思っています。世の中のメディアが作り上げている良いもの、悪いもの、可愛いもの、可愛くないもの、を自分で見分けられるようになることが大事なんです。世間でもてはやされているものを追いかけたり、この人が言ってるから正しい!と鵜呑みにしたりせず、自分の意見を持つというのは難しい。だからこそ、トレーニングで心を強く鍛えることによって、情報の精査を自分でできるようになり、依存しない自分を確立できるのではないでしょうか。いきなりマスを捉えることは難しいけれど、地道にやっていくしかないですね。

金丸:でも、ドミノのように何かがきっかけで、バタバタバタっと一気に変わることだってあるかもしれない。人生100年時代と言われていますが、どれだけ資産があっても、健康でなければ不幸な時間が延びるだけです。岡部さんの活躍によって、女性だけでなく、日本人の肉体や精神面の健康への意識が変わっていけば、それだけ幸せな老後を過ごせる人が増えるはずです。これからのご活躍を楽しみにしています。今日は本当にありがとうございました。

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