SPECIAL TALK Vol.87

~人と自然を繋ぐため左官の技を磨き、職人文化を次世代へと伝えたい~

自然豊かな淡路島に生まれ、幼い頃から左官修業に励む

金丸:早速ですが、お生まれはどちらですか?

久住:兵庫県の淡路島です。

金丸:いいところですよね。神戸まで近いし、淡路牛やタコ、赤ウニなど食べ物もおいしくて。

久住:地元で漁師をやっている友人もいますが、海で獲れるものはどれもおいしいですよ。ほかに何があるというわけではないけれど、そんなところも含めて好きです。

金丸:自然豊かな場所で、久住さんはどんな子ども時代を過ごされたのですか?

久住:落ち着きがないというか、ほかの子と一緒に授業を受けられない子どもでした。学校のみんなと一緒に何かをするというのがすごく苦手で、いつも自由にしていましたね。

金丸:自由ですか。いいですね。

久住:小学校の僕の席なんて、どんどん移動して。最初は普通にあったんですが、先生の隣になり、隣から廊下になり職員室になり、最後は校長先生とマンツーマンみたいな感じに……。

金丸:校長先生と一対一って、考えようによっては、とても贅沢な環境ですね(笑)。

久住:英才教育ですよ(笑)。それに父が「学校には行かなくていい」という変わり者で。

金丸:「行かなくていい」ですか?

久住:はい。「学校教育は全部間違いだ」と考えているような、思い込みの激しい父で。それでも高校までは出させてもらいましたが。

金丸:お父様は今もお元気で?

久住:淡路島で元気に暮らしています。今でも変わり者ですよ。

金丸:久住さんが世界中で活躍されているのを、お父様はどう思っていらっしゃるのですか?

久住:父は僕の仕事に、それほど興味を持っていないんじゃないかと思います。自分は自分、僕は僕というか。父も左官職人ですが、仕事も一緒にしていないので。

金丸:お父様も左官職人ということは、もともとそういう家系なのですか?

久住:僕で3代目です。祖父が左官業を始め、のちに工務店も立ち上げました。工務店は長男が継ぎ、三男だった父が左官業を継いだという。

金丸:では、お父様は最初から久住さんに継がせようと考えていらしたのですね。

久住:そうでしょうね。子どもの頃からよく現場に連れていかれましたし、小学校に上がってからは、左官の訓練を受けないとごはんを食べさせてもらえませんでした。

金丸:小学生のときから訓練ですか。

久住:はい、畳1枚分くらいの壁を土で塗るんです。僕もこれまで、いろいろな親方のもとで修業しましたが、どんな修業よりも過酷でしたね。僕には弟がいるんですが、夏休みの間、弟とふたりでひたすら山のような砂を振るうなんてこともあって。

金丸:小学生にはかなり厳しい時間ですね。

久住:あとは装飾に使う漆喰も手伝いました。固まったあとはいいんですけど、柔らかいうちは強アルカリ性なので、皮膚が溶けてしまうんです。子どもだと皮膚が薄いから、ほとんど血まみれみたいな感じで。それでも毎日毎日漆喰を触る、という日々でした。

父に命じられた海外旅行で、建築の力に衝撃を受ける

金丸:そんな厳しい修業をやらされて、よく左官が嫌いになりませんでしたね。

久住:いやいや、さすがに嫌でしたよ。将来、左官をやるつもりはまったくなくて、夢はケーキ職人でした。高校の3年間はずっとケーキ屋さんでバイトしていたくらいです。

金丸:そうなんですか!?なのに結局は、左官を一生の仕事にされた。それはなぜでしょう?

久住:高校3年生のとき、「若いうちに本物を見てこい」と父に言われて、ヨーロッパを旅行したのが大きかったですね。お金が十分にあったわけじゃないので、少しずつバイトをしながら1ヶ月半かけてヨーロッパのほぼ全土を回ったんですが、旅を通して考えが大きく変わりました。

金丸:高校生のうちにそんな旅をするのは、とても貴重な体験です。お父様自身も世界のあちこちを見てこられたんですか?

久住:父は左官職人として、ドイツのアーヘン工科大学やアメリカのマサチューセッツ工科大学などに講師として招かれたこともあり、僕よりもあちこちに行ってますよ。その土地の土を使って壁を作るという経験も相当しています。

金丸:なるほど。では自分が見て感じたことを、久住さんにも体験してほしかった。

久住:そうでしょうね。僕も最初はケーキ屋さんばかり見ていましたが、父がケルン大聖堂とかいくつかリストアップしてくれたので、一応はそれに従って各地の建築物を見て回りました。

金丸:“本物”を見てどうでしたか?

久住:一番の衝撃は、やっぱりガウディのサグラダ・ファミリアですね。「造りはじめて100年経つが、完成するまでには300年かかる」なんて話を聞いてましたが、実物を見て、「こんなものを人が造れるのか」って震えました。

金丸:日本にも大きな建築物はたくさんありますが、やっぱり存在感が違いますか?

久住:違いますね。100年前に考えた人がいて、それをまだ造り続けていて、建築途中なのに世界中から人が観に来て、みんなが熱狂している。そして建物を見て感動した人が、また新しいものを生み出していく。「なんだろう、これ」って思います。それに建設には左官も関わっているわけで、やっぱりいいよなと。

金丸:今まで嫌だった左官について、改めて考えさせられる機会になったんですね。

久住:もうひとつ、ヨーロッパで感じたのが、職人の扱いの違いです。日本の現場においては、「職人ってあまり大事にされてないな」と感じることがあります。でもヨーロッパでは、ケーキ職人だろうが左官職人だろうが、「作る人」がすごく尊敬されているんです。日本との違いを肌で感じました。

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