本当に怖い、女の話 Vol.1

本当に怖い、女の話:友人の結婚に腹を立てた30歳・女が思いついた、危険すぎる腹いせの方法

菜緒と話したくない。

そんな私の思いは通じることなく、美脚をさらに引き立てるマノロブラニクのピンヒールを履いた菜緒が、私のデスクの前で歩みをとめた。

「…お~、菜緒じゃん!久々だね~」

「よかったら、今からランチ行かない?久々に報告したいことも色々あるし」

「あ、ごめん。今日ちょっと打ち合わせパツパツで」

嘘だ。私はそんな大した仕事を任されていない。絶対に、菜緒の方が忙しい。

「そっか、じゃまた今度ね」

からっとした笑顔で、菜緒は去っていき、そのまま部署の人たちとランチに行ってしまった。

堂々としているのに偉そうでもなく、その颯爽とした姿は目を引く。

更に人気がなくなった殺風景なオフィスでひとり、私は大きく深呼吸した。どうにか自分の気持ちをクールダウンさせたかった。



私と菜緒は同期で、入社当初は2人まとめて“りさなお”なんていう愛称で呼ばれるほどの仲だった。

自分で言うのもなんだけど、私たちは結構モテたし、キャリア志向が強いところもよく似ていた。

『バリバリ働いて早く出世して、でも、ちゃんと30歳までにはいい人と結婚しよーね』

そんなことを、よく語り合ったりした。


けれど、入社3年目で私がデキ婚して以来、関係性は徐々に変わっていった。

私はその後も立て続けに第二子を身ごもり、産休育休をフル活用。29歳で職場復帰したのだが、そのときにはもう菜緒は遠い存在になっていたのだ。

最年少でリーダーを任せられ、宣言通り誰よりも早く出世。年上の部下を従える姿は本当に格好よかったし、仕事に打ち込む姿はイキイキしていた。

いつのまにか“都会の女”然とした洗練されたオーラもまとっていて、すっかり“母親”になってしまった私とは、もう別人だった。

「梨沙子、また一緒に働けるの嬉しいよ~」

それでも菜緒は変わらず私に接してくれたけれど、2人の間にできた溝は深かった。

ここ日系大手企業では、一度“ママさん”カテゴリーに分類されると出世は厳しい。出世どころか、仕事もサポート系の雑務を任されるだけ。

入社以来、半分近くを産休育休にあて、大した経験値や実績もない。さらに当面の間は時短勤務が続く。そんな私に、責任ある仕事やキャリアアップの機会を与えてくれるほど、会社も甘くない。

現実問題、菜緒が手にしたものを、これから私が手にするのは絶望的なのだ。


だけど、私には総合商社に勤める夫と、可愛い2人の子どもがいる。私だって菜緒にないものを持っている。

だから、どうにかプライドを保っていられた。

― …それなのに菜緒が結婚して、順当に子どもを産んでしまったら…。私がただただ負けてしまう。

今まで保たれていた均衡を、一気に崩してしまう。

屁理屈だなんてこと、頭では十分すぎるほどわかっているけど、そういう問題じゃない。

もう全然、冷静になんてなれなかった。

私の中で、何かが崩れていく音がした。

この記事へのコメント

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No Name
デキ婚は夫だけの責任じゃないし。キャリアのぞむなら第二子はもう少し後にするとか、早期復帰するとかできるのに、結局産休育休フル活用してるの自分やん…。嫉妬されたほうはたまったもんじゃない
2021/10/24 05:4099+返信5件
No Name
えーーーーーーーー、梨沙子色々と考え方が間違ってるように思うけど...
イラッとする内容だったけど1話完結なのでまぁ来週に期待。
2021/10/24 05:3099+返信4件
No Name
今まで、既婚で子持ちの方がシングルよりも「格上」 みたいに勘違いしていたから、こんなに悔しい思いをするんじゃないの? それでも菜緒は「やっと梨沙子に追いついたよー」と言ってくれてるんだから、腹いせなんて考えなくても。しかも矛先が自分の夫って…
2021/10/24 05:5899+返信8件
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