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  • 「このままだと、一生独身かも…」2年間彼氏ナシの29歳女が、たった5日間で恋を見つけたワケ

    「綾香さん。ようこそ、いらっしゃいました」

    その夜、綾香はパリ一つ星の名店『レストラン パージュ』を訪れていた。迎えてくれたのは、シェフ・手島竜司氏の妻・直子。

    ここは、崇がパリに来るたびに通っていたレストランだ。ときどき店に出ている直子と崇は親交が深く、彼女は彼の最期を知る人物でもある。


    「本当に惜しい人を亡くしたわ。情熱があって、勉強家で、日本から来るたび、会うのが楽しみだった」

    表情豊かに思い出話をする直子に、綾香も顔がほころぶ。

    鴨料理とともに、『SSS 2009』がサーブされる。このワインは、崇もお気に入りだったそうだ。


    「この黒のワインボトルは…」

    それは、拓真や一樹と一緒に飲んだワインと同じシリーズだった。

    ― こんな偶然って…。

    『SSS 2009』の芳醇なアロマと果実感。メインの蜂蜜やスパイスを塗った鴨を口に含むと、それらはぴったりと寄り添うように一体化した。

    『シャトー・ワイマラマ』が生み出した幻の1本とも言われ、パリのグランメゾンや高級鮨店の間で名を馳せている『SSS 2009』。

    そのワイナリーが新しく生み出したワインが『SSS-Ⅰ 2018』と『SSS-Ⅱ 2018』だという。

    ― これって、もしかして崇が前に進むようにと言ってくれているのかな…。

    時を超え、ワインを通じ、崇からのメッセージを受け取っているように思えた。

    しかし―。

    時折振動する綾香のスマホが、落ち着いた雰囲気に水を差す。

    「旅行中なのに、連絡がよく来るのね」

    からかうように直子が言った。

    「実は…この旅行中に会った二人の男性に…」

    気まずさから、綾香は拓真と一樹との出来事をつい口走ってしまう。幸い直子は、興味深げに聞いてくれた。

    「でも、どちらも断るつもりです。明日でパリを発ちますし」

    本当は、どちらにも惹かれている―。一方、まだ崇への想いもあるし、選べない。だからこその結論だった。

    「それはどうかしら?彼が最期につぶやいていた言葉を思い出したわ」

    直子はグラスを傾け、意味深に笑った。

    「彼の最期の言葉…ですか」

    「綾香さんの名前を叫んでいたわ。『幸せになって欲しい』って。結婚が近かったこともあるのでしょう」

    初めて知る事実に、綾香は胸が締め付けられる。

    「あなたが幸せにならなきゃ、彼が悲しむわ」

    直子の言葉に、綾香の瞳からは大粒の雫が自然とこぼれ落ちていた。

    「私、彼を言い訳にして。幸せになることから逃げていただけなのかも…」

    すると、綾香の手を握って直子は言った。

    「ワインも人も、人間関係も、時間が経つと味わいや深みも変わるわ」

    綾香は崇のためにも、改めて前を向くことを決意するのだった。


    After 5 days


    帰国後、綾香は、今まで以上に仕事に精を出していた。

    結局、パリ5日目は、拓真とも一樹とも会わずに、日本に戻った。

    だが現在、綾香は、二人と連絡を取り合っている。

    今朝も、拓真とオンラインで会話してから出勤した。来月一時帰国する一樹とは、東京で会う予定だ。

    今は決めかねているけど、明るい気持ちで前に進んでいるという実感はある。

    パリで直子に、ワインと料理のマリアージュについて、ひとつ教えてもらった。

    不完全な者同士が、一緒になることにより完璧になる――。

    それがマリアージュ=「結婚」の本当の意味だと。

    綾香は、完璧な自分じゃなくても、誰かと幸せになれることに気づかされた。

    それに、ワインも、人間も関係も、時間が経つと風味も変わる。

    幸せのマリアージュを完成させるには、もう少し時間をかけてもいいのかなと思う綾香だった。

    Fin.


    綾香がパリのレストランで飲んでいた『シャトー・ワイマラマ』のワインの詳細はこちら
    ※SSSⅠ(アン)とSSSⅡ(ドゥ)につきましては、発売前の商品となります。

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