2021.08.08
こじれたふたり Vol.1「どうもこうも、何もないよ」
自分に話題を振るなと言わんばかりに、ショーンは片手で何かを払うような仕草を大袈裟にしてみせる。
そしてシャンパンを飲み干し、無言で目の前に残っていたオリーブをつつき始めた。
「お前、本当に何もないのか~?そのルックスとスペックだったら、芸能人とかとも繋がれそうなのにな」
「…俺の話はいいから」
ショーンは本当に迷惑そうにその話題を終わらせようとしたけれど、雅人さんの言う通りだと思った。31歳。モデル級のルックスに、早稲田大学卒・外コン勤務という肩書。まさに鬼に金棒だ。
きっと女性関係も色々あるけれど、自慢話になってしまわないよう自制したのだろう。だって、こういう派手な顔立ちの人は、絶対遊んでいるに決まっている。絶対そうだ、間違いない。
それから、しばらく当たり障りのない話をして、会はお開きとなった。
◆
短かった結婚生活が終わって、まだ1年。
離婚して間もない今の私は、しばらく恋愛する気にはなれそうにない。
もしかしたら美玲と雅人さんは、そんな私を哀れんで今日、ショーンとの出会いの場を提供してくれたのかもしれなかった。でも、なによりショーン自身が私にまったく興味を示さなかったから、淡い期待を抱くことすらなくて正直助かる。
でも、でも…。いくら気持ちが動かない私でさえ、これだけは分かる。彼の隣に座っていたから、彼の顔をまじまじと見ることはできなかったけれど、濃い顔が好みの私にとってはまさにドストライクのルックス。
ショーンは、本当に久々に見るイケメンだった。
しかし、予想外なことは起きるものだ。
― はぁ、めっちゃ目の保養になった…。しばらくはショーンって人の残像でときめき補充しよう。
それくらいの全くリアリティのない感想しか、ショーンには抱かなかったのに…。
翌日の朝に美玲から届いたLINEには、予想外の言葉が書かれていたのだ。
<美玲:志保の連絡先、ショーンくんに教えていいよね?>
頭の中に、いくつものクエスチョンマークが飛び交う。
<志保:いいけど、なんで?>
そう返すと、速攻で美玲から返信があった。
<美玲:なんでって…ショーンくんが知りたいって言うから!>
なぜだろう?何か私に聞きたいことでもあるのだろうか?あんな引く手数多のイケメンが、バツイチで一つ年上の私なんかに興味を持つとは思えない。
<志保:いいけど>
なぜショーンが私とコンタクト取りたがっているのか、理由は全くわからなかったが、拒否する理由も思い浮かばなかった。
ふと、ショーンを思い出してみる。
真っ白なきれいな歯を見せて笑う顔が最高にハンサムだった。けれど、その隣に立つ女性は、きっと私みたいな女じゃないはず。
帰国子女か海外経験のある、自信に満ち溢れるような女性だろうか。前髪をばさっとかき上げ、ゴールドの大振りのピアスなんかをしてそうだ。
― うわ、私とは全然違いすぎる…!
ショーンに似合う女性を妄想して勝手にショックを受けていると、新しいメッセージの着信があった。
<Shaun.t:志保さん、昨日はありがとうございました!>
速攻で送られてきたイケメンからのLINEにたじろぎながらも、私はどうにか当たり障りのない挨拶を返す。
<志保:こちらこそ、ありがとうございました~>
その後しばらく何ターンかラリーをしたが、なぜ私とこんなやりとりをしているのか、一向に彼の目的がわからない。
私だって恋愛経験がないわけじゃない。バツイチだけど、相手が好意を示しているか否かくらい判断がつく。ショーンはあのとき間違いなく、私に興味を示していなかった。
― だから、きっと何か別の目的があるはず…。
そんなふうにあれこれ考えながらやりとりを続けていると、ショーンは思わぬ提案をしてきたのだ。
「…え、…どういうこと?」
その内容に、私はフリーズした。
理解するために私は何度も何度も、LINEのメッセージを読み返す必要があった。
▶他にも:“親友の婚約者”と“自分の恋人”の確執。男が戦慄した女のエグい世界とは
▶Next:8月15日 日曜更新予定
ショーンが志保に送った、意外なLINEの内容とは…
離婚した理由とかこれから明らかになりつつ、ショーンといい感じに展開していくのかな!
土日に...と比べたらいけないけれど、よっぽど読みやすいし😊
これから楽しみ〜
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