逆玉男子 Vol.1

逆玉男子:“金目当て”で開業医の一人娘を射止めたけど…。結婚後に発覚した、まさかの誤算

「顔、すっごくかっこいいね♡」

その女は百合子といい、歳は7つ上。

「実家は横浜で有名なクリニックを経営している」ということを知ったのはこの少しあとだったが、一目見たときから、お嬢様特有の華やかで余裕のある雰囲気があった。

「ねえ、今度デートしよう。本当に顔がタイプなの!」

百合子にストレートに誘われて、悪い気はしなかった。女には困っていなかったが、お嬢様とだったらデートしてもいい。

そのとき、セレブの友人がこっそり教えてくれた。

「おい、拓。百合子さんはワガママだけど今フリーらしいし、一人娘だぜ?」

― ヒトリムスメ、か。

裕福でない自分にとって『ヒトリムスメ』はつまり『チャンス』なのだ。



そして迎えた、デート当日。百合子はベンツSLのオープンカーで、アパートまで迎えに来てくれた。

身に着けていた真っ赤なワンピースはよく似合っていたが、その装いから確かにワガママそうだと感じた。

…ところが、案外思いやりのある女だったのだ。

「那須でランチ予約してあるから!あ、どっちがいい?」

そう言って百合子は、500mlペットボトルのお茶を2種類、差し出してきたのである。

ワガママで派手だけど、配慮もできる。そんな百合子を「手に入れたい」と思うようになるまで、時間はかからなかった。


「部屋に行ってもいい?」

その日のデート終わりに、ストレートに誘った。そして当時百合子が借りていた広尾のマンションで、関係が始まったのだ。

「好きだよ、百合子」

翌朝から、朝のコーヒーを欠かさず入れるようにした。どんなに忙しくてイライラしていようが 「君は大切な人だよ」の意味を込め、丁寧にドリップした。

その「大切な人」がバックグラウンド目当てなことに、賢い百合子は気づいていたはずだ。

そんな彼女との交際は順調に進み、1年と10ヶ月目には子どもを授かった。計画通り、俺は百合子の名字になったのだ。

「あら、若くてかっこいい人で。…百合ちゃん良かったわね」
「いずれうちの病院を継いでくれるよな?」

彼女の両親には怒られるかなと一瞬構えたが、義母の言葉には拍子抜けし、義父からの言葉は思惑通りだった。


百合子「年下でイケメンな医者の卵だから、悪くないなと思ってたけど…」


― かっこいいなあ、拓の横顔。

毎朝必ずコーヒーを入れてくれる拓の横顔を見るたびに思うのは、シンプルに“彼の顔”に対する感想だ。

「いい?百合ちゃん。かっこいい男性と結婚しなさいね。イケメンだったら何があっても許せるから」

口癖のようにそう言っていた母の気持ちが、今ならよくわかる。父の外見がもっとよかったら、度重なる浮気を許せたと遠回しに伝えたかったのだろう。

母は私が高校へ入学する前に、実家が投資用に所有していた恵比寿のマンションで別居し始めた。

『祖父の代から続く開業医で、母は元・モデルという恵まれた家庭の幸せな子』

中高を横浜にある女子校で過ごした私は、同級生からそう言ってはよく羨ましがられていた。しかしその実情はひどく、父は浮気し放題、おそらく母は別に恋人がいたようだ。

だから経済的には一切の不自由はなかったが、いつだって虚しい青春時代を過ごしてきた。

…そんな暗い気持ちで生きてきた私は、ある日彼と出会ってしまったのだ。

この記事へのコメント

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No Name
いいんじゃない....
ただ結婚したと同時に冷たくなるって、あからさま過ぎ。
2021/07/15 05:1599+返信9件
No Name
父として子供に寂しい想いはさせないで欲しい。それだけかな。
2021/07/15 05:1691返信2件
No Name
んー…需要と供給で釣り合いは取れてる意味ではお似合いの関係なのかしら?
2021/07/15 05:1775返信2件
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