SPECIAL TALK Vol.81

~ゼロからつくる喜びを感じながら、知られざる途上国の底力を伝えたい~

“常識”が通じない環境で“カメレオン”になる

金丸:途上国でビジネスをやろうという人が、まずぶち当たるのが「納期」の概念がないことだと思います。

山口:まさにバングラデシュもそうでした(笑)。

金丸:やっぱり(笑)。日本人は「ここが納期だ」と言われたら、絶対に間に合わせようとするじゃないですか。でも、それが常識として通用するのは、世界でも限られています。バッグひとつ作るのも、最初は大変だったのでは?

山口:そうですね。不良品率は、最初は80%を超えていました。

金丸:それはひどい。でも、本人たちはわざと手を抜いているわけじゃない。それをどうやって改善させて、品質を上げていったのですか?

山口:一番効果があったのは「ライン制」から「テーブル制」にしたことでしょうか。ひとりがひとつの作業を担当する「ライン制」だと、誰が不用品を出しているのかわかりません。なので「テーブル制」に切り替えて、あるテーブルはリュックを作る、別のテーブルはトートを作るというふうにしました。

金丸:なるほど。それなら不良品が出ても、責任が明確になりますね。

山口:それに頑張って作ったら、そのぶん評価されることも理解してもらえました。直営店が出来てからは、朝礼でお客様の声を報告するようにもしています。

金丸:その国の国民性を仕組みでフォローする。現地の人と仕事をするんだから、日本のやり方をそのまま持ち込んでも、うまくいくわけがないですよね。

山口:日本とバングラデシュが違うように、ネパールもインドも国民性が全然違います。

金丸:ということは、それぞれの生産国でやり方を変えているんですか?

山口:もちろん変えています。あるとき「あ、この人たちを変えるんじゃなくて、自分を変えなきゃいけないんだ」と気づいて。それからは、カメレオンみたいに国によって自分を変えるようにしています。

金丸:簡単におっしゃいますが、それができるってすごいことですよ。

山口:それから、それぞれの国で日常会話やものづくりに関する会話が少しはできるくらいの言葉は覚えましたね。

金丸:えっ、本当ですか!?バイリンガルとかトリリンガルどころじゃなく?

山口:だって、彼らと直接しゃべれないと、何かあったときに「わー」って言いたいことを言えないじゃないですか(笑)。

金丸:なるほど(笑)。ところで、主要なマーケットは日本ですよね。デザインは日本人が担当しているのですか?

山口:私がやっています。

金丸:ちょっと待ってください(笑)。デザインの勉強をしたお話は、これまで一切出てきていませんが。

山口:私も自分がやるつもりは全然なかったんですよ。

金丸:そうでしょうね(笑)。それがどうして?

山口:はじめは日本からやりとりしていたんですが、思うようなデザインに仕上がらないことが多くて。だったら、私が現場でデザインして、職人とコミュニケーションを取りながら完成させていくほうが早いと思い、腹をくくりました。

金丸:言葉を覚えることもそうですが、自分でブランドをゼロから作り上げていくんだという山口さんの覚悟が伝わってきます。

山口:自分でデザインしたことで、プロダクトのかたち以上に、素材が重要だと気づくことができました。おかげで素材の開発にさらに力が入りましたね。

金丸:普通、経営者は「ゴールめがけて、最短でたどり着きたい」とか「売上を最大化したい」、あるいは「失敗したくない」と考えて、成功事例を学ぼうとします。でも、山口さんはそうじゃない。

山口:私はプロセス自体が楽しいです。

金丸:これまで一般的な経営者と比べれば相当ユニークな方たちと対談してきましたが、そのなかでも山口さんは突き抜けています。

山口:いえいえ。よく「なぜそんなことができるんですか?」と聞かれるのですが、私としては、自分の力で切り拓いてきたというよりも、その都度助けてもらったり、出会いがあったりで。

金丸:でも、それだけではないでしょう。お話を伺っていると、出来合いのものでは満足しない、何もないところから創り上げていきたいという強い意志を感じます。

山口:たしかにこだわりは強いです。でも、あらゆることにこだわるわけじゃなく、「これは自分たちにしかできない」ということに、とことんこだわるという感じです。いろいろなやり方を試して、ときには失敗しながら、楽しんでやっていければいいのかなと思っています。

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