2021.04.21
SPECIAL TALK Vol.79抱え続けたモヤモヤを作品に昇華させる
金丸:イギリスでの大学生活はどうでしたか?
スプツニ子!:毎日勉強しました。日本では「大学生は勉強しない」なんて言われますが、インペリアル・カレッジでは図書館に缶詰になって勉強しないと、トップの成績は取れないんです。こういう手応えがある学習環境に身を置いたのは初めてで、充実していました。
金丸:日本から逃げ出した、というとネガティブですが、日本では得られない刺激を得られたという意味で、ものすごくポジティブな結果につながったんですね。
スプツニ子!:そうですね。ただ、数学とコンピュータ・サイエンスを学びつつも、大学に入学したときから「なにか創造的な仕事をしたい」と思っていました。高校の頃からアートが大好きだったので。
金丸:アーティストとして本格的に活動をされるのは、いつからですか?
スプツニ子!:大学卒業後です。卒業した後は2年間フリーランスのプログラマーとして働いて学費を貯め、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)に進学しました。そこでの卒業制作のひとつが、『生理マシーン、タカシの場合。』です。
金丸:あの、かなり話題になった作品ですね。
スプツニ子!:「トランスジェンダーの主人公が、機械を使って生理の痛みを体験する」という映像とインスタレーション作品ですが、制作の原動力となったのは大学時代の“モヤモヤ”した気持ちです。大学で、男ばかりのクラスメイトに囲まれてAIやゲノム編集などの先端技術を勉強していたときに、なぜ私はいまだに毎月生理があって血が出て、おなかが痛くて気持ちが悪いんだろう……と考えていました。50年以上も前に月面に着陸するほど、人類はテクノロジーを進化させてきたのに、どうして生理の痛みや辛さだけ原始時代から変わらないのだろう。どんどん疑問が大きくなっていって。
金丸:言われてみれば、確かにそうです。
スプツニ子!:だから「生理の問題が野放しなのって、人類の怠慢じゃないか」と思っていろいろ調べるうちに、テクノロジーやサイエンスの世界が、女性の健康課題解決を後回しにしてきたことを知りました。
金丸:なるほど。
スプツニ子!:でも悪気があるわけじゃなかったと思うんです。これまで男性が多かった世界だからこそ、女性の痛みに目が向かないのは、当然といえば当然です。
金丸:生理に限らず妊娠や出産についても、スプツニ子!さんから見て「遅れている」と感じることはありますか?
スプツニ子!:たとえば、妊婦の8割が苦しむ「つわり」はいまだにはっきりとした原因や治療法が解明されていません。それから、日本では麻酔によって出産時の痛みをやわらげる、無痛分娩がほとんど浸透していません。フィンランドは89%、他のヨーロッパの国も70〜80%という高い普及率ですが、日本はたったの6%。ちなみに中国も10%と低いです。
金丸:そんなに違いがあるんですね。
スプツニ子!:面白いことにデータを解析すると、その国のジェンダーギャップと無痛分娩の普及率がキレイに相関しているんです。つまり、ジェンダーギャップが大きいほど、無痛分娩の普及率が低い。
金丸:そんな相関があるとは。日本では「おなかを痛めて産むからこそ、母としての自覚が生まれる」といった言葉も聞かれますし、女性のなかに「麻酔して出産するなんて、昔だったら考えられない」という方もいるんでしょうね。
スプツニ子!:そうなんです。「母性」や「女性性」が関わってくると、なぜか新しいテクノロジーを取り入れることへの拒否感が増すんです。だけど「お父さんの時代はAGA治療薬なんかなかった。だから薬でハゲを治すなんておかしい」と言われることなんて、滅多にないじゃないですか。
金丸:おっしゃるとおり(笑)。
スプツニ子!:生理に関していえば、もうひとつ興味深い話があります。1960年代にアメリカで経口避妊薬が承認され、その後、より副作用が弱い低用量ピルが開発されました。70年代にはほとんどの国が低用量ビルを認可し、多くの女性が生理痛をやわらげ、ホルモンバランスを整えるピルに助けられました。
金丸:でも日本は遅かったですよね。
スプツニ子!:日本が認可したのは、1999年ですから、驚くほど遅いです。国連加盟国で最後まで認めなかったのが、日本。最後から2番目は1994年に承認した北朝鮮です。
金丸:それも認可する側が、男性に占められているからでしょうか?
スプツニ子!:そうかもしれないですね。認可に反対する理由に「女性が悪用して、性生活が乱れるんじゃないか」といった声もありましたし。
金丸:おかしいですよね。男女の問題なのに、女性ばかりに問題があるような指摘は、どう考えても的外れです。
スプツニ子!:さらに驚いたのが、バイアグラが出てきたときです。日本は世界でもかなり早くて、たった半年という異例のスピードで認可されました。ピルが30年以上かかったのに対し、男性のED(勃起不全)治療薬であるバイアグラは、わずか半年。明らかに変です。
金丸:今の話だけでも、日本の男女格差の根深さがよく分かります。
スプツニ子!:女性がどういう辛い思いをしているのか分からないから、課題解決に関心が持てないんじゃないか。だったら男性が1年だけでも生理の辛さを体験すれば、この問題を解決しようとする人が増えるんじゃないか。そんな問題意識をアートにしたのが、『生理マシーン、タカシの場合。』なんです。徴兵制度ならぬ“徴生理制度”ですね(笑)。
金丸:日本では権力を握っているのは、男性ばかりです。そのジェンダーの壁をどうやってぶち破っていくかは、今後の大きな課題ですね。
スプツニ子!:最近では、菅総理が「不妊治療への支援を拡充する」と発表し、徐々に関心が高まっています。もちろん国が支援策の整備を進めることは大賛成ですが、アメリカではグーグル、アップル、フェイスブックはもちろん、大企業の87%が社員の不妊治療や卵子凍結をサポートしています。
金丸:そうなんですか。日本ではほとんど聞きませんが。
スプツニ子!:アメリカではそれだけ社会的に理解が進んでいるのですが、日本の場合、企業による女性のヘルスケア支援は、まだまだこれからという感じです。
金丸:国民の半分は女性なのに。女性が力を発揮できないように押さえつけられている限り、日本に未来はありません。
【SPECIAL TALK】の記事一覧
2024.04.19
Vol.115
~この楽器だからこそできる表現を。歴史ある箏を武器に世界を目指す~
2024.03.21
Vol.114
~勝負の気持ちから感謝の気持ちに。青森の伝統を守り、盛り上げたい~
2024.02.21
Vol.113
~学問という知的な武器を子どもたちに。学びの体験をアップデートして日本を変える~
2024.01.19
Vol.112
~庭師として素晴らしい日本文化を守り、次の世代へと伝えていきたい~
2023.12.21
Vol.111
~いつだって新しい人に出会いたい。シンプルな好奇心が新たな交流を生んだ~
2023.11.21
Vol.110
~自分が飲みたい日本酒で世界に挑戦し、日本酒業界に革命を起こしたい~
2023.10.20
Vol.109
~世界で一番愛される字を書きたい。世界を舞台に活躍する書道家へ~
2023.09.21
Vol.108
~ピアノや音楽をもっと自由に、多くの人が慣習にとらわれず楽しんでほしい~
2023.08.21
Vol.107
~未曽有の事態に直面して生まれた医療の新しいカタチ~
2023.07.21
Vol.106
~日本における医療の弱みはウェルビーイングの浸透で改善できる~
おすすめ記事
2021.03.19
SPECIAL TALK Vol.78
~やりたいことがやれる人を増やす。自動収穫ロボットで農業を変え、世界を変えたい~
2016.07.05
年収1,000万超の秘密とは!人気職業"総合商社"の給料の実態に迫る
2023.10.11
ハラスメント探偵~解決編~
あなたは当てはまってない!?気をつけていてもハラスメントする人の3つの傾向
2023.08.02
ハラスメント探偵~通報編~
「私の企画書のほうが良くないですか?」指示に従わない新人に、困り果てたOJT担当女性がとった行動
- PR
2024.04.23
港区2大新名所・虎ノ門と麻布台。2つの”ヒルズ”で過ごす、最高の休日デートプランとは
2015.11.02
出張のお供に!名古屋の誰もが笑顔になる“お値打ち”な厳選4店
2015.01.26
あの「スタートアップ」経営者のここぞのチカラ飯 Vol.1
IT経営者たちが選ぶ勝負レストラン12選!パワーみなぎる、がっつりグルメ!
2018.09.01
¥100でハイボールと唐揚げ、泡飲み放題¥5,500!お洒落なのに低コストな「新・飲み会の聖地」はココ!
2016.08.05
銀座だけど堅苦しくない接待に!気軽に使えてビジネスに効く店4選
2015.12.18
接待慣れした美食家はここでもてなせ!サプライズで喜ばせる名店6選
東京カレンダーショッピング
『秋田かまくらミート』:秋田を代表するブランド牛「秋田由利牛」!サシの美しい上質なしゃぶしゃぶ用サーロイン
『肉のABCフーズ』:黒トリュフ塩付!牛タン&A5ランク黒毛和牛を使った極上ハンバーグ
『パンツェロッティ』:具材ごろごろボリューミー!フレッシュな野菜と肉感満載のフライドピッツァ
『HAL YAMASHITA 東京』:シルクのようななめらかさ!冷え冷えトロリの新食感"ウォーターチョコレート"
『レザンファンギャテ』:しっとりと濃厚で、コクのあるニューヨークスタイルのチーズケーキ
『ル・ボヌール 芦屋』:しっとりサクサク!フリーズドライ苺にホワイトチョコをたっぷりと浸透させた新感覚スイーツ
ロングヒット記事
2024.04.20
男と女の答えあわせ【Q】
年上彼氏と2泊3日の初旅行。沖縄の高級ホテル滞在中、26歳女が男に幻滅したワケ
2024.04.16
Editor's Choice~fashion~
GWのラウンドが楽しみになる!日本初上陸から新作まで、いま注目のゴルフウエアブランド4選
2024.04.18
Editor's Choice~beauty & wellness~
【動画アリ】TWICE・SANAが出演するCMメイキングも!イヴ・サンローランから新アイコンリップが登場
2024.04.19
大人の週末ToDoリスト
【東カレ的・ハラカドの歩き方】パリ発のカフェや雑誌の図書館まで、注目ポイントを徹底解剖!
2024.04.21
Editor's Choice~hotel~
GWに足を延ばしたいサウナ5選!大自然に抱かれる世界初のガラスドーム型も!