リバーシ~光と闇の攻防~ Vol.1

リバーシ:出会って3分、IT社長に見初められた地味女。彼から与えられた「衝撃の仕事」

突如動き出した人生


遡ること、1ヶ月前。秋帆は、失意のどん底にいた。

― また今回もダメだったか…。

“選考結果のご連絡”というタイトルのメールを開いて、がっくりと肩を落とす。

“誠に残念ではございますが”

その文字を見ると同時に、メールを削除した。怖くて確認できないが、ごみ箱には不採用通知が大量にあふれている。

― そう上手くいかないよね。

前向きにと思いながらも、現実の厳しさを噛みしめる。

白田秋帆(しろた あきほ)、24歳。

埼玉県にある小さな不動産会社で、事務として働いている。

大学時代、周囲と同じように就職活動もしたのだが、結果は惨敗。特にやりたいこともなく、手当たり次第受けたのが原因だった。

卒業後、地元の埼玉を中心に就職活動を続けたところ、今の不動産会社に雇ってもらえたのは紛れもない幸運だろう。

実家に身を寄せてのんびり働いていた秋帆だが、状況は一変、勤務先の経営状態が悪化。このままではまずいと、さすがに焦った。

― もう一度就職活動をしよう。

そう決意し、チャンスの多い東京を中心に受けてみることにした。

しかし、現実はそう甘くない。

大したスキルもなく、職歴も1年程度。転職エージェントも、転職は難しいだろうと遠回しに伝えてくる。

企業に直接応募してみても、結果は芳しくない。焦りと不安で押しつぶされそうになっていた時だった。

03から始まる番号で、着信があったのは。


― どうか受かりますように。

秋帆は、小さく身体を震わせながらその時を待っていた。受験前のように、掌に「人」の文字を書いて、飲み込む。

今日は通過連絡をもらった会社の面接だ。

他の企業は書類選考で不合格ばかり。ここを逃すと、もう持ち駒がない。

ダメ元で受けた会社だが、ここまで来たからにはどうしても受かりたい。

ー 神様、仏様。私の味方になってくれる人。全員、お願いします。

祈り続けていると、2人の男が姿を現した。

ー あ、この人…!

秋帆は、1人の男を見て息をのんだ。会社のホームページに載っていた、あの人…。この会社の社長ではないか。

黒光りするほどビシッと固めた髪に、射るように鋭い眼光。間違いない。

「怖い」というのが第一印象だった。

それにしても初回から社長が登場するなんて、予想もしていなかった。呼吸が荒くなり、手にじんわりと汗がにじむ。

すると彼は、 秋帆の前にドカッと腰を下ろしたあとで、ニコリと笑った。

「君、とってもいいね」

「え?あの…どのような意味でしょうか…?」

予想外のセリフに驚いて、つい聞き返す。

「“自由な服装”だからだよ」

その言葉に、秋帆は自分の解釈が間違っていなかったのだと嬉しくなった。

面接の連絡をもらった時、「自由な服装で来てください」と、何度も告げられた。

とはいえ、面接だ。スーツで行くべきか迷ったが、あれだけ念を押されたのだからと、カジュアルな装いで臨むことにしたのだ。

「いくら自由な服装でって言っても、皆スーツで来るんだよね。白田さん、君は素直さが出ていて、とても良いと思う」

「ありがとうございます」

頭を下げると、目の前の男は驚くべきことを口にした。

「個人的には、君を採用したい。自己紹介が遅れました。社長の黒川と申します」

― さ、採用…!?

秋帆は、驚きのあまり言葉を失った。

差し出された名刺を受け取ると、そこには確かにこう書いてあった。

“代表取締役社長 黒川 隆(くろかわ たかし)”

この記事へのコメント

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No Name
ちょっと怖い感じのストーリー?
愛人にされるのか...
2021/04/20 05:1699+返信12件
No Name
オフィスで着る服を買うのに社長がついてくる時点で異常。
2021/04/20 05:1984返信5件
No Name
白田秋帆と黒川隆。確かにリバーシに相応しい名字。純粋な秋帆が、徐々に社長色に染められちゃうんだろうな……。過去にも秋帆みたいな女性社員がいたりして……。
2021/04/20 05:2772返信2件
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