いつだって、どこだって Vol.1

いつだって、どこだって:「一夜限りでもいい…」出会ったその日に、女が商社マンの甘い誘惑に乗ってしまったワケ

―ヤバい、めっちゃタイプ…。

「紺野樹です。よろしくね」

シュッとしたシャープな顎に、少し切れ長の目。深みのある低い声。灼熱の国在住だというのに色が白く肌がキレイなその人は、英莉の好みそのものだった。

そして初対面のはずなのに何故か、以前どこかで会ったことがあるような…懐かしい感覚がする。

この人と、私どこかで会ったことあったっけ?なんて首を傾げていると、FENDIのミニバッグに入れたiPhoneが振動した。

こっそりチェックすると、差出人は案の定、隣でニコニコ先輩と談笑している桃華だった。

『どう?』

チラリと顔を上げると桃華とバッチリ目が合う。

彼女に向かって小さく頷くと、男性陣にはバレないように桃華は「がんばろうね!」と口を動かしたのだった。


「わぁ、お洒落!そしてすごく素敵な眺め~♡」

彼らが連れて行ってくれたのは『シロッコ』という、ルブアホテルの最上階にあるルーフトップレストランだった。

「乾杯!バンコクへようこそ」

煌びやかな空間と、心地良く聞こえるジャズの生演奏は、フライトの疲れを一気に癒してくれる。最高の旅の始まりを象徴するかのような空間に、更に気持ちが高まった。

世界一高い場所にある屋外レストランというだけあって、眼下に広がる宝石のようなバンコクの夜景も、キラキラ光る階段やホテルのシンボルと言われている金色のドームや噴水も…全てが非日常でロマンティックだ。

「桃華ちゃんと英莉ちゃんは、同じ部署とかなの?」

「いえ、部署は別なんですけど、内定式の時に仲良くなって。お2人は同じ会社なんですか?」

「会社は別だけど2人とも商社勤務で28歳。で、独身駐在員同士、何かと交流する機会が多くて仲良くなったんだ」

流暢な英語で料理やお酒をオーダーする樹達に頼もしさを感じつつ、話題はお互いのことを探る自己紹介タイムへと移っていく。樹は現在赴任2年目で、最近は駐在員になってから始めたゴルフに精を出しているらしい。

ー私も大学時代ゴルフサークルだったし、話が合うかも…♡

思いのほか共通点が多くて嬉しくなってしまう。

美味しいワインと、シーフード料理、そしてムード満点な雰囲気の中、4人の男女はすぐに距離を縮めた。

「よかったら隣のスカイバーにも行ってみない?」

サッとチェックを済ませ、完璧なエスコートで2人をリードしてくれるあたり、さすが場慣れしている男達だと思う。

「うわ〜気持ちいい!」

「ホテルの敷地からバーの空間のみ飛び出しているでしょ?この設計が特徴的なんだよ」

得意げに樹が説明してくれる。

バーの中と外を隔てているのは、ガラス板のみで、まるで空中に浮いているみたいで開放感が半端ない。

非日常な空間では、世界各国から集まったお洒落な男女が、スタンディングでワイワイ談笑したり、夜景をバックに写真を撮ったり…思い思いの時間を過ごしている。

そのバーで一番人気の「ハングオーバーティーニ」というキラキラと黄金色に輝くショートカクテルを注文し、再び乾杯をした。

「英莉ちゃん、可愛くて話も面白いから、男が放っておかないでしょ。彼氏とかいないの?」

「いないですよ~。樹さんこそ、女の子選び放題でしょう?」

樹の内心は「遊べそうな同年代の日本人女子が来てラッキー」というところだろう。そんな事は分かっている。

カクテルグラスを持っていた、樹の細長く少し骨ばっている手。さりげなくその指が英莉の手に触れた。

チラリと桃華たちの行方を目で追ったが、いつの間にか、さっきまで近くにいたはずの2人は、随分離れた場所に移動している。

樹の顔を見上げると、はにかんだような笑顔を見せて、それからゆっくり指を絡めてきた。慣れたその手つきに心臓が高鳴るのを感じる一方で、冷静にこの状況を分析している自分もいた。

ー今は彼氏もいないし、桃華たちも楽しくやってるみたいだし。ま、いっか……

旅の高揚感とその場の雰囲気にのまれるのもいいのかもしれないと結論づけ、英莉は樹の手を握り返したのだった。

ひんやりとした彼の手は、次第に熱を帯びて温かくなっていく。

テーブルに置かれたロウソクの明かりと煌めく夜景、そして時折どこからともなく光るカメラのフラッシュ。その光の影に隠れるようにこっそり交わしたキスはとても刺激的でドキドキした。

気づけば英莉は、ホテルから樹の住むアパートメントへ向かうタクシーに乗っていた。

―海外だし、ちょっとくらい羽目を外してもイイよね。

タクシードライバーに、タイ語で住所を伝える彼の端正な横顔を眺め、そんな風に思う。

英莉はこの時、樹の家について行ってしまった本当の理由を、自分でも気付いていなかった……。


▶他にも:「嘘だろ…そんな女だったの?」初めて訪れた女の自宅で、男が困惑してしまったワケ

▶Next:11月11日 水曜更新予定
急速に距離を縮めた英莉と樹。しかし英莉には予想外の出来事が待ち受けていて…?

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※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。

この記事へのコメント

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No Name
そもそも、旅先で高いところできれいな夜景みてイケメンがいたら惚れてしまうな。
2020/11/04 06:0677返信3件
No Name
旅っていいよねー。行った気分でワクワクする連載だな♪
2020/11/04 05:1568返信1件
No Name
4話完結のストーリーかぁ……。新鮮😃
なかなか海外旅行をしにくい時期だからこそ、気分だけでも旅したいですね😃
2020/11/04 05:2751
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