かまわないでちゃん Vol.1

かまわないでちゃん:「私、男に貢がれたくないので」ハイブランドで身を固める29歳女のこだわり

―わあ!あの商品、すっごく可愛い…!

「すみません。お食事前にあのお店、覗いてもいいですか?」

メイコは将人に一言断ってから、吸い寄せられるようにヴァレクストラの店内に入っていく。

衝動的に手に取ったのは、ブルーとグレーの中間のような、絶妙な色合いのバッグ。うっとり見とれていると、将人は嬉しそうな顔で言った。

「お、買ってやろうか?」

ニヤニヤとした将人の顔を見て、メイコは「しまった!」と思った。

―確かにこの状況じゃ、ねだっているようなものよね。

慌てて将人の目をまっすぐに見つめると、メイコは満足そうにほほえむ。

「いいえ違うの。先週出した新商品の追加生産が決まったら、その日にこれを買おうと思って」



その後の食事会は、期待以上にビジネスの話題で盛り上がった。

―意外と、有益な会だったかも?

化粧室でシャネルのリップを塗り直しながら、メイコは満たされた気持ちでいたのだ。

しかし席に戻ると、状況は一変していた。

そこには「メイコちゃん。これ開けてみて?」と嬉しそうな笑みを浮かべた、将人の姿があったのだ。なんだかイヤな予感がする。メイコはビクビクしながら、イスの上に視線を移す。

…するとそこには、ヴァレクストラの紙袋が置かれていた。

「はい、プレゼント」

メイコは、自分がどんどん真顔になっていくのを感じる。

「…どうして?」

メイコの質問の意図に反して、将人は嬉しそうに笑った。

「メイコちゃん、可愛いのな。あんなふうに遠回しにおねだりしてくる控え目な女の子、俺好きだよ」

―ああ、台無しだ。大失敗。

どうして説明したのに、ねだったことになるのだろう?

メイコは深くため息をつくと、無言で紙袋を将人につき返したのだった。


「…ってことがあったの!」

メイコは同棲している14歳年上の彼氏・小澤俊也の肩にもたれかかった。ソファで赤ワインを飲み直しながら、今夜のことを愚痴っているのだ。

交際5年目になる俊也には、唯一どんなことでも本音を話せる。

「バッグに罪はないけどさ…。でも、見るたびにその人の顔が出てくるのがイヤ!」

眉間にシワを寄せたメイコの頭に、俊也は大きな手のひらを乗せる。

「私はね、自分で買うから嬉しいの。でも男ってみんな、何かにつけてブランド物をプレゼントしてくるわ。人から下心で貰うブランド物の、どこに価値があるの?」

彼の腕に絡みついて、甘えるようにメイコが言うと「はい。もう寝るよ?これでワインおしまい」と言って俊也は席を立ち、キッチンへと歩いていく。

メイコはぼんやりとしながら、自分のために冷たい水を用意する、その年上の男の姿を見ていた。


▶他にも:職場で“女”を武器に仕事をしてきた27歳OL。入社5年目、女の身に起きたこととは…

▶ Next:9月22日 火曜更新予定
メイコは莉子を連れて、ジバンシイのブティックへ向かい…?

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この記事へのコメント

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No Name
かまわないでちゃんってより

かわないでちゃんのがしっくり
2020/09/15 05:2499+
No Name
食事に行く前にショップに寄ってバッグを品定めする…「買ってやろうか?」と言われ、満足そうに微笑んで断わる。
誰がどう見たっておねだりしてるとしか思えない。
2020/09/15 07:3780返信5件
No Name
生まれて10,000日目なんて意識したことなかった!おしゃれー。笑
2020/09/15 05:4762返信7件
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