2020.09.07
モラトリアムの女たち Vol.1華子は出産前、大手出版社でファッション誌の編集をしていたのだそうだ。
確かに、いつ見ても抜かりのない流行ファッションでキメている。今日着ているコートはロンハーマンで購入したものらしい。
「もしよければ、今度一緒に子ども服ブランドの展示会に行きましょうよ」
「え、いいの?」
恐縮しながら言うと華子はニッコリ笑った。
「4月には復職するから、あまり会えなくなるけど…。招待状もらったらすぐに連絡するね」
「復職…?」
その2文字に、未希はどこか凍り付くような感覚をおぼえた。
「そう。保育園に入れるの。夫はフリーランスだし、収入もあるから切られるかなって思っていたんだけど。先週、認可決定の通知が来たんだ」
華子が出版社で働いていたことは知っていたが、その話しぶりからすでに退職したものだと思い込んでいた。
「そう、おめでとう」
嬉しそうに話す華子に、お祝いの言葉を言うしか選択肢はなかった。ただ、なぜか華子が復職するという事実が、自分の中に重くのしかかる。
寂しい、というわけではない。それとは違う心のざわつきが収まらなかった。
―なんだろう、この胸騒ぎ…。
未希の脳裏に、退社した日の光景がおのずとよみがえってくる。
2018年 3月
「入社から今までありがとうございました」
大手損害保険会社の法人営業部。シンと静まり返ったフロアの中央では、今日をもって退職する未希が、同僚たちの前で挨拶をしている。
「右も左も分からなかった私が、1人前の会社員になれたのも、ご指導いただいた先輩方と、共に励まし合った同僚、支えてくれた後輩のおかげです」
未希は同僚たちの顔を見回して、まっすぐな目で言う。
「これからはお腹の中の赤ちゃんの、1人前のママになれるよう頑張ります」
そう言ってニッコリ微笑むと、周囲の拍手に囲まれながら頭を下げる。
その瞬間、ある男性上司が小声でつぶやいたのが聞こえてきた。
「あんな鉄の女でも、妊娠すると変わるんだな」
周囲はうなずき、同僚の1人が答える。
「彼女、不妊治療していたんですよね。そこまでしていたんだから、会社の期待があってもアッサリ捨てるのは当然だと思いますよ。彼女も所詮、女だったんですね」
社内のほとんどの人間は、自分を“得体の知れない異質な存在”として認識していた。
「鉄の女」や「宇宙人」など、未希を表す異名は数限りなかったのだ。
それもそのはず。未希は男社会と言われるこの大手損害保険会社で優秀な営業成績を誇り、30歳という若さで初めて課長代理になった女だったのだから。
社内の女性活躍推進リーダーとして、メディアに出演したこともある。もちろん社内からは慰留の声もあったが、未希の意志は固かった。
「順調だったのに」
「ここまでキャリアを積んだのになぜ?」
そんな声に、未希はお腹をさすりながらこう答えたのだ。
「私がいなくなっても代わりはいます。でも、この子のママの代わりはいないんです」
このときの未希は、自分の選択を後悔する日が来ることなど、想像もしていなかったのだった…。
▶他にも:「夫の海外赴任中に、寂しすぎて…」豪邸に残された妻が取ってしまった予想外の奇行
▶Next:9月14日 月曜更新予定
残りの育休を満喫する華子の姿に、未希の心には黒い感情が芽生え…?
※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。
まぁ、それだけ優秀だったら、誰かがツテなんかをたどりながら未希の前に現れて、また復帰してよ、なんてオファーも来るかも知れないけどさ。
母親の代わりはいないという言葉は綺麗だし色んな人に都合がいいからよく使われるよね。
でも子供が母親にべったりでいて欲しいのなんて14歳くらいまでだよ。その後は母親が一人の人間として充実して生活しててくれる(さらに言えばお金も稼いでいろんな選択肢をくれる)ほうが子供はありがたいものだよ。子供が親離れしたあとの数十年どうすごすの?
ずっと専業主婦で満足という人もい...続きを見るるんだろうけど社会で活躍できることを知ってる人はそうは行かないよ。
復職してたら、子供が熱出した風邪引いた諸々で早退する事になった時なんで私ばっかり子供の面倒見なきゃいけないの?仕事に集中したいのに。とか思いそうだし。
とりあえず周りのママ友と比較なんてしないで、子育てに集中してた方が良さそう。
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