モラトリアムの女たち Vol.1

モラトリアムの女たち:家事に協力的な夫と、かわいい娘。それでも女が満たされないワケ

華子は出産前、大手出版社でファッション誌の編集をしていたのだそうだ。

確かに、いつ見ても抜かりのない流行ファッションでキメている。今日着ているコートはロンハーマンで購入したものらしい。

「もしよければ、今度一緒に子ども服ブランドの展示会に行きましょうよ」

「え、いいの?」

恐縮しながら言うと華子はニッコリ笑った。

「4月には復職するから、あまり会えなくなるけど…。招待状もらったらすぐに連絡するね」

「復職…?」

その2文字に、未希はどこか凍り付くような感覚をおぼえた。

「そう。保育園に入れるの。夫はフリーランスだし、収入もあるから切られるかなって思っていたんだけど。先週、認可決定の通知が来たんだ」

華子が出版社で働いていたことは知っていたが、その話しぶりからすでに退職したものだと思い込んでいた。

「そう、おめでとう」

嬉しそうに話す華子に、お祝いの言葉を言うしか選択肢はなかった。ただ、なぜか華子が復職するという事実が、自分の中に重くのしかかる。

寂しい、というわけではない。それとは違う心のざわつきが収まらなかった。

―なんだろう、この胸騒ぎ…。

未希の脳裏に、退社した日の光景がおのずとよみがえってくる。


2018年 3月


「入社から今までありがとうございました」

大手損害保険会社の法人営業部。シンと静まり返ったフロアの中央では、今日をもって退職する未希が、同僚たちの前で挨拶をしている。

「右も左も分からなかった私が、1人前の会社員になれたのも、ご指導いただいた先輩方と、共に励まし合った同僚......


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