SPECIAL TALK Vol.71

~とどまることは、衰退を意味する。尺八を武器に世界を目指したい~

男性が9割の男社会で理不尽や違和感も経験

金丸:尺八奏者は男性が多いという話でしたが、そのことで何か苦労などはありましたか?

田辺:違和感を覚えることはありましたね。たとえば、大学での試験は着物を着て舞台に臨むのですが、尺八専攻の学生は男女関係なく、黒紋付に男袴を着用という決まりがありました。

金丸:中学・高校の意味不明な校則がよく話題になりますが、藝大にも似たようなものがあるんですね。田辺さんもずっと男袴を着ていたのですか?

田辺:はい。でもその決まりが嫌でしかたなくて。だから最後の最後、大学院の最後の試験では、女袴をつけて演奏することを許可していただきました。

金丸:おお、風穴を開けたんですね!

田辺:東京藝大の試験で、尺八専攻の学生が女袴を着た初めての例だったそうです。いかにこの業界に女性が少ないかを表していますよね。コンサートのときも、女性の更衣室が用意されていなくて、トイレで着替えることもありました。

金丸:女性奏者もいるということが、頭から抜け落ちてしまっているんですね。

田辺:でも逆に、女性奏者だからこそチャンスを与えてくださることも多いんです。最近では学生サークルでも尺八女子が増えていますし、私が尺八を始めた頃に比べると環境がかなり変わってきているなと感じるので、こういう悩みはなくなっていくと思います。

金丸:ちなみに、お父様は今も現役で演奏されているのですか?

田辺:そうです。

金丸:田辺さんがプロになられて、やっぱり喜んでいらっしゃるのでは?

田辺:どう思っているかはわからないですけど、最初は止められました。

金丸:意外ですね。娘が自分と同じ道を選んでくれたらすごく嬉しいと思うのですが。

田辺:父からは「趣味でやるのはいいけど、プロとしてやるのだから覚悟しなさい」と言われました。親だからこその心配もあるんでしょうけど、尺八をやっていなければ、父の仕事現場に行くこともなかったし、今では父と一緒に演奏する機会もあって嬉しいですね。ただ、私は父と一緒だと安心するんですけど、父のほうは心配事がひとつ増えるみたいです(笑)。

金丸:親であり先輩でもあると、いろいろと複雑なんですね。田辺さんの場合、どういう場所で演奏することが多いのですか?

田辺:一般的なコンサートホールから、ライブハウス、コンパクトなお座敷まで、いろいろです。企業のイベントで演奏させていただく機会も多いですね。

金丸:演奏は邦楽の古典がメインなんですか?

田辺:最初は古典ばかりでしたが、今では古典以外も多くなりました。たとえばクラシックとかジャズとか。藝大卒業後、仕事が全然ない時期に、タダでもいいから舞台に立ちたくて、「何でもやりますから、よろしくお願いします」とあちこち回りました。お客様のリクエストに応えて、ジャンルを超えて曲を演奏していくうちに、古典以外のお仕事もいただくようになって。

金丸:期待に応えることで信頼を得て、だんだんと活躍の場が増えていったのですね。

田辺:古典ばかりやっていた頃と違って、演奏を聴いてくださる方が何を求めているのかがダイレクトにわかるので、私の演奏家としての意識も変化したように感じます。

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