ヒマジョ Vol.1

ヒマジョ:「一線は越えない…」と我慢していた女が、男と会えなくなった代わりに始めたコト

あれは今年の初め、ようやく大きなプロジェクトにアサインされた時のこと。

仕事が丁寧だとはよく言われてきたが、そのぶん要領が悪いのか、私は毎日夜遅くまで残業していた。

そんな時に唯一、気にかけてくれたのが優斗だった。

「あれ?今日も残業?」

帰る支度をしながらも、心配そうな優しい声で近寄ってくる優斗を、今でも鮮明に思い出せる。

「営業の方たちが勝ち取ってくれた契約だから、私も本気で取り組みたいんです!一番下っ端で、迷惑かけたくないですし」

優秀な人が多い職場で、足を引っ張りたくないという本音だった。

「でも、あのコンペに出した企画自体、アユミも制作に加わっていたよね?」

「それはそうなんですけどね。でも、私はたぶん他人より努力しないとダメなんですよ」

私はふたたび、PCに向き直る。それでも優斗は帰ろうとしなかった。

「とりあえず、今日はもう十分でしょ。スタミナのつく焼肉でも食べに行こうか!」

突然の誘いに驚く。だって入社してから、ずっと密かに憧れていた先輩だったから。

「あ、今の子はこういう誘い、迷惑か。ごめん」

「いえ、迷惑なんかじゃないです。連れてってください!」

この日から、私たちは一気に仲良くなった。

優斗に奥さんがいることを知ったのも、この時だ。

つまり優斗は、恋をしてはいけない対象。深い仲になることは許されない関係。

だけど、私は仕事仲間以上の感情を持ち始めてしまっていた。


最初は、後輩として可愛がってくれているのだ、と思うようにしていたが、それにも限界があった。

優斗からのマメなLINEは、「おはよう」から「おやすみ」まで続き、既婚者だということをまるで感じさせない。

憧れの先輩が、家族よりも私に時間を使っている。それを突き放すことなど、私にはできなかった。

でも、一線は決して越えない。

自分で決めた、絶対に破ってはいけないルール。

だから、キスされそうになる度に茶化し、家に行っていいか聞かれる度に理由をつけて断っていた。でも、日に日に気持ちは大きくなっていく。

ー優斗ともっと親密になりたい...

ルールなんか、無視してしまおうか。

ついにそんな考えが頭をよぎった頃、緊急事態宣言が発令された。そして、私の日常は一気に色を失ったのだ。

優斗と一緒に仕事したり、食事に行ったり、毎日のようにLINEしたり...そういうことで満たされていた生活が、ガラリと変わった。

朝起きてPCを立ち上げ、そこからは毎日同じことの繰り返し。

それでも平日はまだいい。仕事というこなすべきタスクがあるから。

問題は、土日だ。もともと趣味などほとんどなく、休みの日は美容院やネイル、マッサージといった自分メンテに時間を費やしていた。

だから、ずっと家にいてもやることがないのだ。

料理をしようにも一人分を作るのは、時に無駄だし、恋愛ドラマや映画も観る気分にならない。

唯一、最後まで観ることができたのは、一人の男が成り上がっていく韓国ドラマだけだった。

この記事へのコメント

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No Name
よかったぁ、始まらなくてマジでよかったぁ❗
2020/08/08 05:2999+返信7件
No Name
優斗と始まらなくて良かったじゃん。
いい人にはこれからも巡り会えるさ😉😉
2020/08/08 06:0188
No Name
デットボールは受けたことないけど、なんかこの表現分かるなぁ。
“始まらなくて良かった”って言うけど、よく言われる「どこからが浮気?」って話になると「致してしまったら」「気持ちが動いたら」「二人で出かけたら」等、人それぞれなので、“奥さん的にはエグい”けど、バレた時の慰謝料的には“一線を越えなくて”良かったね?…多分💧
2020/08/08 05:3064返信2件
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