SPECIAL TALK Vol.70

~「地元産にこだわるから個性が出る」世界中で学んだ技術で日本ワインを進化させたい~

世界的権威の仕事を見て、科学的醸造に感銘を受ける

金丸:ご実家の中央葡萄酒に入社されたのは、いつですか?

三澤:2004年です。最初の1年は醸造や栽培だけでなく、私にできることはなんでもやりました。

金丸:ご家族は喜ばれたでしょう。

三澤:父には最初、「地獄へようこそ」と言われましたね。

金丸:地獄!?それだけ苦労が多いということでしょうか。

三澤:そうですね。そんな世界でやっていく覚悟はあるのか、ということだったようで。

金丸:では三澤さんは、そんな地獄をちゃんと生き抜いてきたわけですね。

三澤:これまでにいろいろなありがたい出会いがあったおかげだと思っています。ちょうど私が入社した年に、輸入会社が主導した「甲州ワインプロジェクト」で、中央葡萄酒が委託醸造所に選ばれました。そのとき、コンサルタントとして、“白ワイン醸造の魔術師”とも呼ばれたドゥニ・デュブルデュー教授(故人)が来られたんです。

金丸:入社早々に、世界的な大家と仕事をする機会に恵まれたんですね。

三澤:デュブルデュー教授はボルドー大学で教鞭をとる一方で、シャトーを所有するオーナーでもありました。ソーヴィニヨン・ブランを革命的に変えた、醸造の世界では伝説的な人物です。たとえば、スキン・コンタクトの導入も教授の仕事です。

金丸:それはどういう手法ですか?

三澤:ワインの香りというのは、ぶどうの果皮に由来します。白ワインは通常、収穫したらすぐに搾るのが一般的ですが、スキン・コンタクトは果皮を果汁に数時間ほど浸しておくんです。

金丸:ぶどうの個性がより強く出そうですね。

三澤:そうなんです。個性を生かすだけではなく、教授のワイン醸造は非常に科学的でした。それを間近で見てすごく感銘を受けて。

金丸:日本酒もそうですが、酒造の世界は経験と勘がものを言う時代が長かった。でも酒造は発酵であり、発酵はサイエンスですからね。

三澤:私の父も理系だったので、科学的なアプローチを試していたのですが、教授の醸造はレベルが違いました。求めるワイン像があり、それを実現するためにこういう手法を取る、というのが明確だったんです。

金丸:世界を見てみると、ワインの世界で活躍している人は、大学できちんと科学の勉強をしています。ワインだけじゃなく、農業もそうです。理系でITを勉強してきた人が農業の世界に行くから、高い競争力がある。たとえば農薬を使うかどうかひとつをとっても、彼らは経験ではなく科学的に判断している。日本も見習うところがたくさんあると思います。

三澤:私自身、高品質のワインを造るためには、科学的な裏付けが必要だと痛切に感じました。だから教授のもとで勉強しようと思い、ボルドー大学の醸造学部に2005年から1年間留学しました。

金丸:決断力がすごいですね。世の中には自分に足りないものがあるとわかっていても、なかなか一歩を踏み出せない人も多いのに。ところで、留学する前からフランス語は話せたのですか?

三澤:最初はパンを買うのが精一杯でした。

金丸:じゃあ、留学はとんでもなく勇気のある決断だったんですね。

三澤:授業では一番前に座って全部の授業を録音し、何度も聞きなおしながら勉強しました。3ヶ月くらいすると、夢にフランス語が出てくるようになりました。

金丸:強い目的意識があるからこそ、そこまで努力できたのでしょうね。

ボルドーとブルゴーニュ。2大産地でワインを学ぶ

金丸:ボルドー大学で学んだなかで、一番心に残ったことは何でしょう?

三澤:いろいろなことを学びましたが、一番感動したのは「ワインはやっぱりぶどうなんだな」ということです。

金丸:結局品質を決めるのは、原材料だということですね。

三澤:ある授業では「収穫のタイミングは、分析だけでなく、ぶどうを食べて判断する」と言われました。ところが、当時は山梨ではほとんどの醸造所が多かれ少なかれ、農協からぶどうを買っていました。

金丸:それだと醸造家自身ではなく、農協や農家の判断に委ねることになってしまいますね。

三澤:最近では珍しくなくなりましたが、当時から中央葡萄酒の代表的なワインである「グレイス」は、収穫して48時間以内に必ず仕込みを始めていました。でもその頃はまだ、農家さんがぶどうを摘んでから3、4日後に仕込みはじめるのが、普通だったんです。

金丸:収穫してから時間がたてば、それだけ品質は劣化しますが。

三澤:それなので、収穫から仕込みへの早さが「グレイス」のウリになっていました。でもフランスに行ってみると、そんなことは誰も言わない。ぶどうの品質が命だから、収穫したらすぐに仕込むのが当たり前だったんです。

金丸:世界とのレベルの違いを目の当たりにしたのですね。

三澤:でもそうやって既存の価値観を崩されるのが、すごく楽しくて。中央葡萄酒のワインは国内ではそれなりに知られるようになっていて、お山の大将になっていたところが少しありましたから。

金丸:もし日本国内だけを見ていれば、そのままお山の大将だったかもしれません。ボルドーに飛び出したのは、正解でしたね。

三澤:その後もあちこちの産地に足を運びました。ボルドー大学を卒業後は、ブルゴーニュの専門学校に。

金丸:本当に勉強熱心なんですね。

三澤:ボルドーとブルゴーニュは世界の2大生産地ですから、両方学びたいという気持ちがあって。一方で、早く日本に帰ってワインを造りたいという思いもあり、普通は2年かけて卒業するところを、頑張って1年で卒業しました。

金丸:さらっとおっしゃいますけど、外国語というハードルがあるなかでの勉強は大変だったでしょう。

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