美活時代 Vol.1

「お金をかけるほど安心できる」美容代は月25万円。“美しさ”に執着する女の生態

成分を確認したあと、ユリカは「買います」と速攻でうなずいた。

その後、美肌を保つためにヒアルロン酸を注入する水光注射の施術も終え、化粧水代と合わせた118,000円を支払ったユリカは、ウキウキとした気分で美容皮膚科を出る。

梅雨の時期特有の、湿度の高い空気が肌にまとわりつく。

「あー。汗かいちゃいそう」

たまに汗で肌がかぶれることのあるユリカは、それを恐れてタクシーを止めた。そして乗り込むなり、スマホのメモアプリを立ち上げ、文字を打ち込む。

【6/28 化粧水・水光注射 118,000円】

ユリカは、こうして自分にかけた美容代をメモしている。施術内容の記録でもあるが、主に、月の美容代を算出するのが目的だ。

―6月は、25万円とちょっとか。

自分がいくら美容にお金を掛けたのか。その金額が大きければ大きいほど、ユリカは安心する。だって美は、お金をかければかけるだけ育つから。こんなにわかりやすいものは世の中にそうそうないと思う。

ユリカは手鏡を取り出し、隙のない自分の姿をチェックした。その美しさに、思わずため息がもれる。

25万円分の美が自分に降り注いでいるのを感じ、ユリカは満たされた気持ちになるのだった。


ユリカを乗せたタクシーは自宅マンションのある二子玉川に到着した。

「あ、ここで止めて頂けます?」

ユリカは、窓の外を見ながらそう言った。話題のクレンズジュースチェーンが出店しているのを見つけたのだ。

―うわあ、美味しそう!夜ご飯はこれでいいかな。

ユリカは迷いなく入店すると、27種類もあるというドリンクメニューの前で立ち止まる。そのとき、後ろからゴルフバッグを携えた男性が入店してきた。

軽く会釈をしてユリカを通り越しレジに向かった男性は、慣れた様子でドリンクを注文し、そしてユリカの方を向いた。

「お姉さん、よかったら一緒にお会計しますよ」

―ああ、このパターンね。

「え、いいんですか?私、デトックスケールミックスが飲みたいです」

「じゃあ、それも一緒で」

男性はニッコリしたあと無造作にレジにカードを置き、ユリカと一言二言、言葉を交わした。そしてジュースが差し出され、ユリカがとびきりの笑顔でお礼を言うと、男性は満足げに手をひらひらさせて店を出ていった。

―ハイクラスの男って、“美女にものを奢る”その行為だけで満足するのよね。

ユリカは、歴代の彼氏たちを思い浮かべながらそう思った。金額の大小はあれど皆一様に、ユリカへと嬉しそうに美容代を差し出してくれる。

付き合って3か月の彼氏・祐太も、もちろん例外ではない。特に、美容への理解がある祐太は“美容代”と称して、月30万円を渡してくれる。

それなのに。

デトックス効果があるというクレンズジュースを味わいながら、ユリカは二子玉川の大通りを歩く。そしてぼんやりと、祐太の顔を思い浮かべた。

―もう1週間も、連絡返ってこないなあ。

祐太は、ここ数日で急にそっけなくなった。

そしてユリカには、ハッキリと思い当たる節があるのだった。


▶他にも:別れた彼女の職場に、突然押し掛ける元・婚約者。非常識な男に伝えられた、衝撃の事実

▶ Next:7月1日 水曜更新予定
彼氏と1週間連絡が途絶えているユリカ。そのワケとは?

東レデート詳細はこちら >

この記事へのコメント

Pencilコメントする
No Name
だ、大丈夫? そのうちお金出してくれる男性もいなくなって、横領とかしちゃって捕まりそう。
2020/06/24 05:2199+返信1件
No Name
定時間内に化粧するのは無いわー。ちゃんとその後20分仕事して調整しなよ!
2020/06/24 05:1699+返信10件
No Name
東カレらしい話、久しぶりにキタ笑!
中身の無い外見ばかり気にするにゃんにゃんOL、これから転落の道をたどるのかな。

確かに美容ってお金をかけると答えは出るよね。
でも20代から美容皮膚科にこんなにお金を掛けてると、年齢が上がっていったら、お金ももっともっとかかるよねー。
2020/06/24 05:2799+返信2件
もっと見る ( 72 件 )

【美活時代】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo