SPECIAL TALK Vol.68

~故郷に職人のエデンを作りたい。世界一の庭師として次に挑むものがある~

金丸恭文氏 フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長

大阪府生まれ、鹿児島県育ち。神戸大学工学部卒業。1989年起業、代表取締役就任。

日本の価値を失わないために必要なのは庭職人のエデン

金丸:日本には、海外の人が驚くような日本独自のものがたくさんあります。でも当の日本人はそれに気づかないままどんどん欧米化し、特徴や強みをなくしているように思います。だけど、石原さんはそこにこだわる。たとえば、苔に着目しているのだって、そうですよね。

石原:僕に苔の話をさせたら止まらないですよ(笑)。2007年、『タイムズ』紙の一面に、「モスマン(苔男)」というニックネームをつけられて、テニスプレーヤーのフェデラーよりも大きく載りました。あれはうれしかったですね。

金丸:それまでイギリスでは、苔はゴミ扱いだったそうですね。

石原:でも僕が苔を使った庭づくりをし、しかもゴールドメダルを取ったことで、「イギリスの文化を変えた」と新聞で大々的に取り上げられました。

金丸:外国人だけではなく、日本人でさえも苔が人を驚かせ、感動させるなんて考えもしません。大事なのは、まずはそこに気づくかどうか、そして気づいた上できっちりやりきるかどうかです。

石原:最近は壁面緑化の仕事も多くなりましたが、そこでも苔は大活躍してくれています。

金丸:だけど、僕が不思議なのは、モトクロス選手を目指していた石原さんが、生け花を勉強したとはいえ、どうしてここまでアーティストとして才能を開花させたのか、ということです。もともと才能があったのか、あるいは勉強熱心なのか、ご自身ではどのようにお考えですか?

石原:花や庭に限らず、必要なことは一生懸命勉強します。中学、高校のときはずっとオートバイのコースの絵を描きながら、どう走ればいいかを研究していましたし。

金丸:知識を詰め込む勉強というより、分析する力が卓越しているのでしょうね。

石原:分析は好きですね。モトクロスの選手時代も、シフトの位置やハンドルの位置、オイルの濃度をいろいろ試しながら、「これだ」というのを探っていました。庭を作るときも根本は一緒です。ただ、ここまで必死にやれているのは、やはり4億円の借金を背負ったからじゃないかと。

金丸:借金でアートの才能が花開いた。それは面白い。

石原:返済のために稼がなきゃいけない。そして稼ぐためには、圧倒的に感動してもらわないといけなかったので。

金丸:人を喜ばせるために何をすればいいかを突き詰めて考えながら、毎回毎回、真剣勝負で望んでいれば、感覚も研ぎ澄まされるだろうし、何を求められているかにも敏感になる、というわけですね。

石原:ハングリーになれたことで感性が磨かれましたね。自分の好きなことで稼げているので、仕事が楽しくてしょうがないです。

金丸:庭で人を集められるということは、たとえば企業と組んだときに、その企業の価値すら上げることができるということだと思います。

石原:おっしゃるとおりです。ですから最近は、僕の庭を見て感動してもらうだけでなく、それに付随して、どういうことができるかを考えています。基本は庭ですが、金融や不動産のことなどもっと勉強しないといけません。

金丸:いろいろとやりたいこともたくさんあるでしょうけど、これからの夢はありますか?

石原:今、長崎に、僕の一生をかけて「庭」をテーマにした街を作ろうとしています。世界中の庭師がガーデニングについて学べる学校を作り、周辺には飲食店やカフェ、ホテルも建設して、庭に関するすべてのものを集約した街を目指しています。

金丸:なぜそのような街を作りたいと?

石原:それは庭に携わる職人が稼げるようにしたいからです。庭師はかなり体力を使う仕事なので、ある程度の年齢になると引退せざるを得ません。でも技術はあるし、口も達者。だったら先生として活躍してもらおうと思ったんです。長崎市の中心部から車で10分ぐらいの5,000坪の土地にすでに庭を作っていまして、長崎もほかの都市と同様、空き家が増えているので、これを買い取って毎年5,000坪ずつ増やしていき、街を丸ごと庭にしていこうかと(笑)。スペインのサグラダ・ファミリアのガーデニング版です。

金丸:すごい計画ですね。壮大だし、非常に意義のあることだと思います。腕のいい職人が腕に見合う年俸をもらえる社会じゃないと、良いものは生まれません。

石原:僕は日本の武器は、日本人そのものだと思っています。外国の安い労働力に頼ればいまや何でもできますが、それだとやっぱり技術が漏れてしまう。世界との競争に負けてしまいます。

金丸:家電メーカーがまさしくそうですよね。

石原:僕は長崎からイギリスへ勝負に行き、11回優勝しました。ほかの国の庭師たちは5億円や10億円をかけて庭を作っているけど、僕は最大でも1億円しかかけません。それでもなぜ勝てるのか。それはやっぱり職人がみな真面目に取り組んでくれるし、信頼し合っている師弟関係があるからです。損得を超えてきっちり仕事をしてくれるからこそ、多くの人を感動させられるのだと確信しています。

金丸:その職人の世界に持続性を持たせるためにも、ちゃんと勉強できて、腕に見合った報酬が得られる環境を石原さんは作りたいんですね。故郷の長崎に。

石原:はい。長崎を職人のエデンにするのが、僕の夢です。

金丸:素晴らしい。海外に価値を発信するだけでなく、国内で職人たちを養成する。ガーデニング業界でそれができれば、ほかの分野にも大きな影響を与えるはずです。いずれ必ず遊びにいきたいです。今日はお忙しいところ、本当にありがとうございました。

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