高嶺のカナ Vol.2

「ああいう女性は、男たちが放っておかない」。交際1日で、男が同僚の女から言われたこと

誓い


「ところで、勉強の方はどう?」

そもそも、健人が藍子に相談したかったのは花奈のことではない。話の流れでいつのまにか彼女とのことを暴露してしまったが、もともと話したかった内容は、藍子の言う通り“勉強”のことだ。

実は健人は公認会計士を目指していて、すでに資格を所有している藍子にアドバイスをもらっているのだった。

健人の働く大手メーカーでは、簿記やビジネス法務などの資格取得が推奨されている。

だが、誰もが持っている資格を持っていても、他人と差別化出来ない。そう考えた健人は、せっかく勉強するなら、自分の強みになる市場価値の高い資格を取得しようと思い、公認会計士を目指すことにしたのだ。

「計算に慣れるので手一杯で、理論に手が回ってないです」

「まぁ今はそれでいいと思うけどね。受験だってそうだったでしょ」

そう言って彼女は、健人の模試の結果を眺めながら、具体的なアドバイスを付け加えた。

藍子のアドバイスは、いつも痛い所を突いてくる。たまに耳を塞ぎたくなるが、的確なので信頼できるのだ。

「でもさ、あんまり根詰めて仕事に影響が出ても仕方ないし。気楽にやったらいいよ」

そう言うと彼女は、最後の餃子を口に放り込んだ。会計に向かい、健人が財布からお札を取り出そうとすると、藍子はそれを制止した。

「ここはお姉さんが奢ってあげるわ」

「ありがとうございます」

お姉さん、と聞いて、藍子が一体何歳なのかふと気になった。だがそんなことを聞けるわけもなく、そっと心の奥にしまった。


「じゃあ、頑張ってね。勉強も恋愛も」

お店を出ると、藍子は立ち寄るところがあると言って、颯爽と立ち去った。

「はい…。ごちそうさまでした」

健人は頭を下げて見送った後で、歯磨きにトイレへと向かう。

“気楽にやったらいいよ”

藍子の言葉が、健人の頭の中でリフレインする。今までだったらその言葉を鵜呑みにしていただろう。

正直、試験を甘く見ていた。働きながら受かる人は少数派だ。大体は学生か、仕事をやめて勉強に専念していると聞く。

事実、健人は去年の短答試験で不合格だった。

「仕事が忙しくて勉強出来なかった」「受からなくてもしょうがない…」。

そんな考えが、本番が近づくにつれて頭の中にちらつくようになっていく。

−でも。これまでとは違う。

昨日の一件で、健人は心を新たにしていた。

正直ハプニングだった、花奈との恋愛スタート。どうしてOKされたのか、自分でもよく分からない。

だが藍子の言う通り、彼女のような“高嶺の花”を周りが放っておくわけがない。

努力して自分を磨かなければ、あっという間に彼女の気持ちが離れてしまうだろう。そんなのは絶対に嫌だ。

「よし!」

健人は、洗面所の鏡に映る自分の顔を眺めながら、頰をパンパンと叩いた。

ー花奈に自分のことを好きになってもらう。惚れさせるんだ。

こうして健人は、花奈のことも、試験のことも中途半端にしない、と心に誓ったのだ。


▶︎Next:6月6日 土曜更新予定
花奈が健人の告白を受け入れた理由とは…?

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この記事へのコメント

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No Name
健人、いいね。こういう精神状態だといろんなことがうまくいきやすくなるよ😄

そして花奈がOKした理由気になる。また来週も楽しみ☺️✨
2020/05/30 05:4999+返信1件
No Name
恋をパワーに変えるけんちゃん、素敵です💕
2020/05/30 05:4155
田舎者
😄さわやかなお話で良いですね。
2020/05/30 06:3945返信1件
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