2020.03.21
SPECIAL TALK Vol.66金丸:面白いですね。実は私も会社を上場させたあと、親戚が集まる会で面白い体験をしました。私の努力を祝ってくれるだろうと思って出席したら、父方と母方が「うちの先祖の誰々の血だ!」と侃々諤々の大議論を始めて(笑)。
片岡:金丸さんの出る幕がありませんね(笑)。
金丸:本当に。私そっちのけで年配の人たちがもめて、最終的に父方、母方からひとりずつ、あの人とあの人の合作である、という結論に至りました。最後のスピーチでは「私が今日あるのは、この人とこの人のおかげです。ありがとうございました」と締めました(笑)。
片岡:うまくまとめましたね。
金丸:でも私も「もうちょっと早く言ってくれ」と思いましたよ。人とどんなに違うことをやっていても、先祖にこういう人がいたとわかっていたら自分が正当化されるというか。「自分には祖父の血が流れているんだ」と思えば、確信を持って前に進むことができます。
片岡:そうですよね。大きな後押しになります。
金丸:今、絵の話が出てきましたが、その前はボクシングに打ち込まれていましたね。
片岡:ボクシングはもともと興味があったんですが、直接のきっかけは、役者をやるにあたって、それまでのイメージを払拭しようと考えたことです。
金丸:俳優としては『男女7人夏物語』が大ヒットしました。
片岡:“貞九郎”という役は当たり役でしたね。ただ、その後も貞九郎をなぞったようなオファーが続いて、「このまま続けたら1年で飽きられるな」と危機感を覚えました。当時の僕はバラエティ仕様のぽちゃっとした体型で、今よりも20キロ以上太っていましたし。
金丸:「バラエティの鶴ちゃん」から脱しようと。
片岡:そうです。32歳で一念発起して、断れる仕事はすべて断り、渡嘉敷勝男さんに秘密特訓にお付き合いいただいて、ボクサーとしての体を作り上げました。体重を1年間で15キロ落としました。
金丸:凄まじいですね。
片岡:当時、ロバート・デ・ニーロの『レイジング・ブル』という映画を見て、感銘を受けたのもあります。デ・ニーロは実在する世界チャンピオンを演じるために、現役時代のバリバリの肉体だけでなく、リタイア後のぶくぶくに太るところまで、完璧に役作りをしていた。「役者はこれくらいしないとだめだ」と覚悟しましたね。僕も1年間徹底的にやって、プロのライセンスを取り、それを手土産に役者の道に進もうと決めました。
金丸:面白い。鶴太郎さんは未来志向ですよね。数年後の自分をイメージして、そこに向かって今をデザインしていく。それが俳優として、刑事モノや大河ドラマでの活躍につながっているんでしょうね。
感動を伝えたくて絵画、瞑想への興味からヨガ、好奇心は衰え知らず
金丸:すでにかなり濃い人生ですが、その後、絵を描きはじめたのはいつ頃ですか?
片岡:40歳ですね。役者として出ていたドラマシリーズが終わったり、プロテストまで一緒に練習し、その後僕がマネージャーを務めた鬼塚勝也選手(元WBA世界王者)が現役引退したり。なんとなく「潮目が変わったな」と感じていました。
金丸:30代が充実していたから、なおさら不安を感じたのかもしれませんね。
片岡:朝起きると、鉛を飲んだように体が重く、歯を磨くときも鏡には自信のない顔が映っている。毎日鬱々としているけど、それでも仕事には行かなきゃいけない。そんな2月のある日、朝5時に家を出て車に乗り込もうとした瞬間、何か赤いものが目に入ったんです。ふと見ると、花が咲いていました。
金丸:まるで映画のワンシーンのようです。
片岡:花なんてそれまで全然興味がなかったのに、気になったんですよ。誰も見ていないのに自分の生をまっとうしている。自分もこの花みたいに凛とできたらいいのに……。そしたら「こうやって俺を感動させてくれるこの花に、俺は何かできないのか」という思いに至って。
金丸:この感動を、絵で伝えたいと。
片岡:そうなんです。とにかく感動を伝えたい。そしたら俺の人生、豊かになるんじゃないかと。
金丸:意外でした。有名な画家の素晴らしい絵を見て、自分も描こうと思ったわけじゃないんですね。
片岡:まったく。赤い花が「椿」だということも、あとで知ったくらいです(笑)。最初は鉛筆でデッサンをしてみたんですが、ひどいもんですよ。絵を描いたことがないから。それで文房具屋に行って「絵を描きたいんだけど、どんな道具がありますか?」と尋ねたら、「墨彩画なんてどうですか」と勧められて。あとは独学です。
金丸:それで今に至るのだから、信じられません。私も鶴太郎さんに絵を教えてもらいましたが、とても印象深かったのは、サバを描いたときです。私は光り物に目がなく、サバも大好きなんですが、サバをじっくり観察したのは、あのときが初めてでした。メタリックな色ばかりじゃなくて、ピンクや黄色の部分があることを初めて知りましたね。
片岡:絵を描くってそういうことなんです。よく見ない限り、絶対に描けません。
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