2020.02.21
SPECIAL TALK Vol.65外部進学した先でテクノロジーと出合う
米良:とはいえ、成城学園で育ててもらった部分も大きいです。成城学園は勉強よりも、感受性を豊かにする教育に重きを置いていて、卒業生のなかにはトップレベルのアーティストも大勢いらっしゃいます。おかげで、世界的な指揮者の小澤征爾さんが合唱部のレッスンをしてくれるような環境でした。
金丸:それは贅沢ですね!
米良:とくに中学生の頃は、ゼロから自分で何かを生み出す機会がたくさんあって、たとえば音楽や演劇を創作したり、粘土で作品を作ったり。やたらとものづくりをしていた記憶があります(笑)。しかも、作品に対して「いい、悪い」という評価を受けることがほとんどなくて。
金丸:表現やものづくりを通して、自分が何をしたいか、そのためにどうすればいいかを考える力が養われたのでしょうね。
米良:成績についても、先生からいろいろ言われることはなく、高校2年生のときに初めて自分がクラスで何位なのかを知りました。「あれ? クラスのなかでも結構いいほうだぞ」とわかって、外部の大学を受験するという選択肢が出てきたくらいです。
金丸:慶應義塾大学に進学して、多様性は広がりましたか?
米良:私のほかに成城学園から進学した人はひとりもいませんでしたが、慶應も内部進学生が結構いて、伸び伸びしているというか、マイペースな人が多かったので、成城学園と同じような雰囲気でした。だから、環境が劇的に変わったという感じはあまりしませんでしたね。
金丸:ところで、なぜ経済学部を選んだのですか?
米良:それも、家庭教師の先生が経済学部だったから、という単純な理由です(笑)。藤田康範ゼミというマクロ経済学のゼミ生でした。藤田先生の授業の話がすごく面白かったので、私も何も調べず藤田ゼミに入りました。
金丸:むちゃくちゃ素直なんですね(笑)。
米良:でも、その選択は正解でした。藤田ゼミは外部と積極的にコラボレーションしていて、その関係で3年生のときに、人工知能研究の第一人者である東京大学教授の松尾 豊先生とお会いしたんです。そのとき共同研究で立ち上げたのが、「あのひと検索SPYSEE」(以下、SPYSEE)です。
金丸:松尾先生とは、私もしょっちゅうお会いしていますよ。
米良:「テクノロジーを使えば、こんなこともできるんだ」と驚きましたね。それに、研究さえできればいいという研究者が多いなか、松尾先生は「社会にテクノロジーを浸透させること」を目的に活動されていて。就職を控え、社会人としてどのような道に進もうか迷っていた時期だったので、その考え方にかなり影響を受けました。
起業家に衝撃を受け、アメリカ留学を決意
金丸:大学卒業後はどうされたのですか?
米良:結局就職せず、大学院に進みました。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)という、古川 享さん(日本マイクロソフト初代会長)が教授をされているところです。
金丸:進学の決め手はなんだったのでしょう?
米良:人づてに古川先生にお会いし、「テクノロジーの勉強なら、うちにおいでよ」と誘われたんです。
金丸:私も古川さんのことはよく知っていますが、米良さんはいいタイミングで、いい人に巡り会っていますね。
米良:そうですね。いい出会いはさらに続いて、松尾先生がゼミの学生たちと一緒にシリコンバレーに行くというので、私もついていきました。感動しましたね。「自分の作りたい世界をこんなにキラキラした目で語る人が、この世の中にいるんだ!」と。私の周りには、学生で起業している人は全然いませんでしたから。
金丸:シリコンバレーで初めて、起業家という存在に出会ったわけですね。
米良:私は何かを生み出そうという人が大好きだし、心から尊敬できるということがよくわかりました。だから帰りの飛行機のなかで、松尾先生に「私もいつかシリコンバレーに戻れるように頑張りたいです」と言いました。すると、「みんなそう言うけど、誰もやらないんだよね」と返されたんです。
金丸:バッサリ切り捨てられた(笑)。
米良:すごく悔しくて。「絶対に戻ります」と言って、家に帰ってすぐスタンフォード大学のウェブサイトを見て、どうすれば行けるのか必死に調べました。で、サマースクールに参加し、そのまま留学したんです。
金丸:スピードと行動力が素晴らしい!
米良:私はKMDの3期生なんですが、当時は留学制度もまだ整っていなくて。それを古川先生が、いろいろな先生に自ら掛け合ってくださったんです。「何か持ち帰ってくる子だと思うから、今行かせてあげるべきだ」と。
金丸:古川さんもさすがの行動力ですね。
米良:本当に周りの人たちに恵まれていると思います。「やりたい!」という気持ちを全力で応援してくれる方たちに、早いうちから出会えたおかげで、今の私があると思っています。
金丸:でもそれは、米良さんの本気の姿勢が伝わったからでしょう。頭の中で考えているだけで行動に移さなければ、周りだって応援のしようがないですから。
米良:アメリカに留学したときは、ちょうどクラウドファンディングのサービスが次々と出始めたタイミングでした。「これはお金の流れを大きく変えるんじゃないか」とすごく興味がわいて。
金丸:それがREADYFORにつながるんですね。
米良:そうです。それに「SPYSEE」を立ち上げた経験も生きましたね。「SPYSEE」は、松尾先生が作ったアルゴリズムに基づいて、人物同士の相関図を示すという特徴を持ったデータベースです。当時はツイッターもフェイスブックもありませんでしたが、でもこれからは個人の情報が集約される時代になっていくんだろうなと感じました。ということは、たとえばある企業が素晴らしい事業を行った場合、企業そのものではなく、「それを実現した人」が注目される時代になるんじゃないかと。
金丸:個人が力を持ち、主役になる時代が来ると。
米良:ええ。個人の時代になっていくなら、個人の挑戦を応援するような仕組みを作りたい、と思ったんです。ちょうどその頃、パラリンピックのスキーチームの監督にお会いする機会がありました。チームは強いけれど資金繰りに苦労していて、「お金がなくてやりたいことができない」と困っていました。それならチームがやりたいことをインターネットで知らせれば、きっと応援したい人が見つかるはずと考え、募金を呼び掛けたところ、実際に多くの資金を集めることができました。これがREADYFORの原型になります。
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