「中の上が、意外とモテる」あえてトップを狙わない、メガバンク男の言い分

中の上を脱したと思ったが・・・


もちろんこれだけで、トップセールスとまではいかなかったが、はたから見たらその成績は明らかに「平均よりかなり上」をいくものだった。

「これが僕の実力ではないことは理解していました。でも、初めてだったんです、こういう注目を浴びることが。

それが意外にも快感で…。仕事ができる先輩に彼女を取られた悔しさみたいなものも相まって、ちょっとここらで本気で仕事頑張ってみるか、って初めて思ったんです」

実力ではないにしろ、初めて感じた優越感。

そして失恋。

タイミングよくこの2つが健太に降りかかったことで、健太は初めて「中の上」というぬるま湯から脱するためのスイッチが押されたのだった。

それから健太は、優秀な先輩の営業に同行させてもらったり、仕事に役立ちそうな本を読み漁ったりと、営業成績を上げるためにできることは何でもこなした。

そして、ぐんぐん営業成績を伸ばしていき、ついに支店トップの営業成績を収めるまでになった。

しかもその支店での成績トップをマークし続けた結果、2年後、本店へと異動するに至ったというのだ。

「本店への異動は営業成績だけで決まるわけではないですが、“仕事は裏切らない”って本当なんだなって、この時初めて実感しました」

今度こそ名実ともに、仕事において「中の上」を脱することができたと思っていた健太だったが、ここにきて、初めてとある感情を経験したという。

営業成績が上がればあがるほど、上司からも「来月も頼んだぞ」と期待をかけられた。

今まで、可もなく不可もなく、といった人生を歩んできた健太に、プレッシャーという始めて経験するストレスが襲い掛かったというのだ。

しかし、健太はそれでも必死に努力をし続け、本店でもトップをマークし続けた。

さらに、上を目指したくなった彼は、32歳の時、外資系金融機関へと転職を果たすことになる。

「当時、すごく尊敬していた優秀な先輩が、突然外資系に転職したんです。自分もその先輩目指して仕事していたこともあり、後を追う形ですぐに転職しました」

日系企業で働いていた時代の、2倍近い年収となり、完全に「中の上」より上を脱したと思っていた健太だったが、そこで更に新たな壁にぶち当たることになった。

「外資ではメジャーかもしれませんが、“Up or Out“という考え方が根付いていて。要は昇進するか辞めるかなんです。僕なんかよりずっと優秀でめちゃくちゃ向上心持っている人がゴロゴロいて…。

“上には上がいる”ということを、目の当たりにしました。

明らかに僕より羽振りが良かったり、高級マンションに住んでるやつもいたりします。その生活ぶりからも格差を感じずにはいられませんでしたね…」

結局、中の上を脱することができた、と喜んでいたのは束の間、また“中の上”を脱するために努力する日々が始まったそう。

「野心を持って上へ上へと目指して気づいたんですけど、人生ってエンドレスゲームですよね。どこまで行けばゴールなのか・・・。

それにね!この前、大学時代の友人たちと飲みに行ったんですけど…。

昔はバカ言って騒いでいるだけで楽しかったのに、こんなことしている間にライバルたちに抜かれたらどうしようと思ったら、なんか焦っちゃって…。昔みたいに楽しめなかったんです」

ようやく、「中の上」から脱せたと思った健太だったが、プレッシャーというストレスだけでなく、青天井の出世競争を目の当たりにし、途方に暮れてしまったようだ。

しかも一旦上に這い上がってしまうと、以前のポジションには戻れなくなるのが人間というものらしい。

しかしそれは、向上心を持って上り詰めていく者にとっては、避けられぬものなのかもしれない。健太には、それらをスパイスとして捉え、負けずに更に上を目指してほしいと思った。


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才色兼備な姉に対抗心を燃やし、見事美人キャリアウーマンへと成り上がった女の誤算とは?

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