200億の女 Vol.21

「恥ずかしくて、身動きがとれない」。女の羞恥心を巧みに操る男の口説き文句

騙されたのは女か、それとも男か?
「恋」に落ちたのか、それとも「罠」にはまったのか?

資産200億の“恋を知らない資産家の令嬢”と、それまでに10億を奪いながらも“一度も訴えられたことがない、詐欺師の男”。

そんな二人が出会い、動き出した運命の歯車。

◆これまでのあらすじ

詐欺師・小川の思惑通り、夫と離婚してしまった智。小川と一緒に訪れたアフリカで、二人はついにキスをしてしまう。


唇が触れ合ったのは、ほんの一瞬だった。

「俺を利用してください。あなたが誰かを…本当に愛することができるようになるために」

唇が離れてからも、私の頬に手を添えたまま囁いた、小川さんの言葉に私は我に返った。息がかかる程近くで見つめてくる薄茶色の瞳から逃げるように、その頬の手を振り払う。

―頬が熱い。

自覚したせいなのか、全身に熱さが広がっていく。脈が壊れたように早くなり、指先まで熱い。

「何するんですか。その、急に」

怒ったはずの語尾が弱くなったことを誤魔化したくて、私は、キッと小川さんを睨んだ。

「急じゃなかったらいいんですか?じゃあ次は、キスしますね、って言ってからキスします」

「そういうことじゃなくて!」

「手、握りますね」

反論などどうでもいいとばかりに、小川さんは、私の左手の指先を握った。呆気にとられている間に、それは小川さんの唇まで持ち上げられ、指先や手の甲に、軽い口づけが落とされる。

「智さんのペースとか、ぐちゃぐちゃとした感情に合わせていたら、永遠に関係が進まなさそうなんで、もう遠慮はやめます。

すっかり忘れられてるみたいだからもう一度言っておきますけど、俺はあなたが好きなんです。できればあなたと恋をしたい。利用されたって何をされたっていいから、側にいたいんです」

真っ直ぐに私を見つめたまま、まるで壊れ物のようにそっと、小川さんは私の手を離した。

「あなたは離婚した。だからもう、俺とこうしてることに罪悪感を抱く必要はないでしょ?」

小川さんの言葉が、軽く無責任に聞こえて、自分でもよく分からない感情に苛立ちが加わった。

―そんなに簡単なことじゃない。

「確かに離婚はしました。でも離婚したばかりですし、私には愛香がいます。母である私が、父親以外の人に心が揺らいでるなんて知ったら…」

「…揺らいでくれてるんですか?俺に?」

小川さんの言葉にハッとする。

―私は、今、何を。

「…っ、やばいな、嬉しい」

私の動揺をよそに、小川さんは、とろけるような顔で笑った。

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