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  • 落ちない男 Vol.2

    「もう少し一緒にいたいな…」百戦錬磨のモテ女が、初めて自ら男を誘った夜

    愛理が、一目惚れをした運命の男とデートをすることになった経緯はこうだ。

    先週末、幼馴染の優香の家にお泊まりをした際、なんと深夜の六本木で愛理を助けてくれた紳士が、優香の大学時代の先輩・湊慎一郎だということが発覚。

    まさかの偶然に、これはまさしく運命に違いないと確信した愛理はその場で、彼と連絡先を繋いでくれるよう優香に懇願した。

    そして、その翌日。

    “愛理、湊さんのLINE繋ぐね”
    “湊さん。昨夜話した、私の幼馴染の愛理です”

    先方の承諾を得たらしい優香が、3人のグループLINEを作って、愛理と湊を無事に繋げてくれたのだ。

    “優香、ありがとう。この恩は一生忘れないから!!!!”

    溢れる熱意と感謝の気持ちを優香に届けた後で、続いて愛理は湊にもLINEを送った。

    “湊さん。先日六本木で助けていただいた愛理です。あの時は動揺していてお名前も聞けず…まさか優香と知り合いだったとは嬉しい偶然です”
    “改めてお礼をしたいので、ぜひお食事をご一緒させていただけませんか”

    デートに誘われた経験なら、星の数ほど。しかしこんな風に自ら男性をデートに誘うなんて、愛理にとって初めての経験だった。

    そうして息をするのも忘れて送信したメッセージはすぐに既読となり、数秒後、短いメッセージが届いたのだ。

    “OK。わざわざ連絡ありがとう。ぜひ行きましょう”

    その後、数回のやりとりであっさり日程と場所も決まった。ちょうど会食がキャンセルになり空いていたという月曜夜に、彼が気になっているというレストラン『KEISUKE MATSUSHIMA y Oliva』でディナーをすることになったのだ。


    「あの…この間は本当に、ありがとうございました」

    湊に指定された『KEISUKE MATSUSHIMA y Oliva』は、神宮前のフレンチ『KEISUKE MATSUSHIMA』で3日間だけ特別なメニューが提供される時の、期間限定の店名だった。

    特別感のある空間で湊とこうして再会できた喜びを噛み締めながら、愛理は彼を見つめてとびっきりの笑顔を作った。

    「あんなドラマチックな体験したの、人生で初めて。颯爽と現れた湊さんがあまりに素敵で…私、ドキドキしちゃいました」

    「初めて」「素敵」「ドキドキする」。静かに上目で彼を見つめ、思わせぶりな言葉を三連発で盛り込んで反応を伺う。

    これまでの経験上、愛理がここまで言って浮かれない男はいない。わかりやすく鼻の下を伸ばし、饒舌になって、あわよくば接触しようと距離を縮めてくる。

    …ところが、なぜだろう。湊に限っては一向に手応えを感じない。

    「そんな、大げさだよ」

    渾身の笑顔にも熱を込めた視線にも、彼は一切動じずに「はは」と爽やかに笑うだけ。

    拒否されている感じはしない。しかし好意も感じない。いわば、無関心。

    湊が一番楽しそうな笑顔を見せたのは、男性スタッフからお料理を紹介された時だった。

    鯛のローストとスペイン産オリーブオイルのピストゥ。シェフのスペシャリテであるラタトゥイユも添えられているという一品。


    お料理を見ながら、湊は満足そうな笑顔で、優しくこう言った。

    「愛理ちゃん、こちらのお店ではね、オリーブオイルの香りや味を最大限に引き出すためのメニューをいただけるんだ。僕、素材の魅力を活かすって、とても大事だと思うんだよ。お料理も、人も」

    そう言って湊は2秒ほど、まっすぐ愛理を見つめてきた。

    彼の意味深な物言いが気になったものの、ようやく見せてくれた笑顔に、愛理はほっと胸をなでおろす。

    だが一向に縮まらない距離と湊の態度に、愛理はこれまで感じたことのない焦燥を抱くのだった。

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