「一刻も早く子どもが欲しいの」。地方暮らしに馴染めず、夫婦生活が破綻した妻のとった行動とは

東京は、飽きない街である。

東京都の人口は、約1,400万。47都道府県ある中、1割以上の日本人は東京に住んでいるという計算だ。

その分、人との出会いが多く、刺激的な仕事も多い。だがもしそんなとき、“東京以外に住む”という選択肢を提示されたら…?

これはそうした経験をした(している)人の、リアルな体験談である。

東京以外での生活は、アリだった?ナシだった?

前回は、東京生まれ東京育ちのお嬢様でありながら、大阪に移住した奈緒子さんを紹介した。今回は?


<今週の地方在住者>
名前:有紗さん(仮名)
年齢:32歳
住居:静岡県浜松市


「このお店のうな重、どうですか?とっても美味しいでしょ?」

そう言ってニッコリ微笑むのは、2年前から静岡県浜松市に住んでいるという有紗さん。

「浜松駅からも近いから、出張でこっちに来る友達に聞かれたら、必ずここをお勧めしてるんです」

彼女が待ち合わせ場所に指定したのは、地元の人にも定評のあるうなぎ専門店『八百徳 駅南店』だ。

東京都世田谷区で生まれ育った彼女が浜松に越してきたのは、ご主人・悠人さんが家業を継ぐことになったのがきっかけだった。

悠人さんとの結婚は3年前。当時は都内の大手監査法人で働いていた彼とは知人の紹介で知り合い、結婚に至った。

「親が浜松で会計事務所を開業しているということは結婚前から聞いていました。彼も父親の影響で会計士になったものの、自分には東京の方があっているから継ぐ気はない。親も了承済みだと言っていたんです」

生まれも育ちも東京で、中高は、千代田区一番町にある有名私立女子校に通っていたという有紗さん。大学は早稲田大学に進学した。

そんな彼女には、いつか東京を離れ地方で暮らすという選択肢は一切なかったという。

出会ったばかりの頃、ご主人が浜松出身と聞いた時、とっさに浮かんだのは「ふーん。うなぎと餃子の街か」という感想だけ。

「夫の実家に結婚の挨拶に行ったり、一緒に帰省したりと、何度か浜松を訪れていました。その頃抱いていた印象は、可もなく不可もない“いいところ”。

街もとても綺麗だし、人も親しみやすいですが、住むとなったら別です。決して田舎だとは思いませんが、浜松にはデパートが一つしかないと聞いた時“自分には絶対無理”と考えていましたね」

ところが結婚して1年が過ぎたころ、転機が訪れた。

悠人さんの父親が、突然倒れて入院したのだ。命に別状はなかったものの、父親の入院をきっかけに、悠人さんの考えが変わった。

「やっぱり浜松に帰って、父親の事務所を継ぎたい、と言いだしたんです」

当時、有紗さんは、ワインや輸入食材を取り扱う専門商社に勤めていた。ワインと料理が大好きな彼女にとって天職とも言える仕事。それを辞める事には相当の抵抗があった。

「幸い浜松は、東京から新幹線で1時間半と近いので、単身赴任や週末婚も考えました。だけど私、一刻も早く子どもが欲しかったんです。そのためにはやっぱり一緒に暮らした方がいいなと思って、悩みに悩んだ挙句、思い切って退職し、浜松に引っ越すことを決めました」

東京を離れるのは本望ではなかったが、はじめ彼女は比較的気楽に考えていた。

静岡県は気候の寒暖差も少なく、人も温厚だといわれている。東京と大阪の中間地点でどちらも行きやすいし、名古屋だって近い浜松は、きっと住むにはいいところだろうと呑気に構えていたのだ。

しかし彼女を待ち受けていたのは、決して甘くはない現実だったのである。

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