「一刻も早く子どもが欲しいの」。地方暮らしに馴染めず、夫婦生活が破綻した妻のとった行動とは

仕事を辞めてしまったうえに、浜松に友達が全くいないという状況が想像以上に孤独で心細かったという有紗さん。

そんな妻を見かねて、ご主人の悠人さんは頻繁に、仲間内の飲み会や集まりに連れ出してくれた。しかし、そこで有紗さんが感じたのは「とてつもない疎外感」だったという。

「なんだか入りにくいな、というのが第一印象でした。みんな気さくでフレンドリーではあるんですが、仲間同士の結束が異常なほどに固いんです」

悠人さんが卒業したのは、静岡県トップクラスの県立高校。彼の周囲の友人たちも皆その高校を卒業している。

卒業して10年以上経つとは思えぬ仲の良さに、有紗さんは度肝を抜かれた。

聞けば、悠人さんの父親も、父親の会計事務所の顧客である経営者や医者、弁護士など、ほとんどがその高校を卒業しており、親の代からのネットワークが強固だと感じたそうだ。

「みんな、その高校にものすごい誇りとプライドをもっているのを感じました。ちなみに私の出身校は、東京では知らない人はいない名門なのに、浜松では誰も知らないということも衝撃的でした」

どうしても、浜松に馴染めない


それでも最初は一生懸命自分から、会話に入っていこうと試みた。

「話題がないので、とりあえず静岡への愛を語っておこうと思って。大学時代の友達に静岡市出身の子がいたとか、温泉旅行で行ったことのある伊豆や熱海が大好きだとか、必死で話してみたんですが…。全く興味を持ってもらえずショックでした。

静岡は横に長いですよね。同じ静岡県でも、中部や東部に対する地元意識は、浜松の人たちには全くないんだって、後から夫に聞かされて落胆しました」

さらに戸惑ったのは、実は“遠州弁”といわれるこのあたりの方言も独特だということ。有名なところだと、語尾に「だら」や「だに」をつけるなどの特徴があるが、東京では通じないような言い回しや単語も実は多い。

「夫もそれまで私の前では方言を出さないようにしていたみたいで、仲間の前では方言を使いこなす“遠州弁ネイティブ”の夫の姿を見たときは、別人のようでビックリしました」

ご主人の飲み会に顔を出しながらも、“自分だけよそ者”という思いはどんどん強まっていく。

浜松にいまいち馴染めず、ボンヤリと過ごしてばかりの有紗さんを心配し、悠人さんが「何か仕事してみたら?」と言ってくれた。

就職活動も考えたが、子づくりを念頭に置いているため、このタイミングでの就職は現実的ではない。

そこで、大好きな料理の腕前にはかなりの自信があった有紗さんは、自宅での料理教室を開講することにしたのだ。

「…でも、知り合いがいない私にとっては、料理ができても集客が簡単ではありません。SNSなどで必死に集客を試みたものの、全然生徒が集まらなくて。

だんだん辞めてしまった仕事が恋しくなってきて、そもそも仕事を辞めなきゃいけなかったのも夫のせいだと、心の中で彼を恨むようになったんです」

その頃の彼女の精神状態は、完全にネガティヴ・モード。そうすると段々、浜松という土地そのものに対しても否定的になっていく。

「知ってますか?浜松の冬って、実は寒いんです」

静岡県は気候が比較的温暖で、寒暖差がないことで知られているはずだが…。

「はい、確かに気温差は激しくないです。ただこのあたりは“遠州のからっ風”と呼ばれる、とんでもなく冷たい風がビュウビュウ吹くので、冬がとても辛くて。落ち込んでいるときに気分を変えたくて、ちょっと外に出ると…ものすごい風に煽られるので、何もかもがいやになりました」

土地にも人にも馴染めず、料理教室もうまくいかない。有紗さんはついに限界に達してしまった。

自分がこんな思いをするのは夫のせいだ。自分が毎日辛いのは、浜松という土地や人のせいだと、思うようになったのだ。

「こんな精神状態ですから、当然、夫との仲も次第にギクシャクするようになって。彼に八つ当たりしたり、不平不満ばかり言う私に、夫は愛想を尽かしたみたい…。子どもが欲しくてついてきたはずだったのに、気づけば夫婦の営みは皆無となりました…」

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo