Love Letters Vol.6

「妻の前でも、他の女のことを考えてしまう」浮ついた男を改心させた、ある出来事

あなたは、誰かにラブレターを送ったことがありますか?

文字に想いをしたためて、愛する人に贈る言葉。

手紙、メールやLINE..方法はいろいろあるけれど、誰かを愛おしいと思う気持ちはいつだって変わらない。

側にいる大好きな人、想いを伝え損ねてしまったあの人に向けて…。

これは、読むと恋がしたくなる切なくて甘い「ラブレター」にまつわる男女のオムニバスストーリー。

今週の主人公は、会社の部下・沙羅に最後のメールを送った野村賢史。去ってから初めて想いを打ち明けた賢史の本心とは…?


「おかえりなさい。梨々香寝てるから、静かにお願いね」

23時過ぎに会社から帰って来た僕を、パジャマ姿の妻の優花里がそう言って出迎えた。

僕は「わかった」と小さく頷き、音を立てないようにして子供部屋のドアを開け、ベッドの方へと忍び足で近づいた。

2センチほどの薄明かりがドアの隙間から差し込み、妻が貼った「ローマの休日」のポスターを照らす。

その下のベッドでスヤスヤと寝息を立てる梨々香の表情は、9歳とは思えないほどにあどけなくて、冷たい石みたいにガチガチにこわばった僕の心をゆっくりとほどいていくのだった。

―やっぱり、山下から離れてよかった。あのまま側にいたら…きっと僕は、親父と同じような人間になってしまっていただろう。

浮気三昧で、家庭を少しも顧みなかった親父。

たまに帰ってきたかと思えば、浮気男特有の不穏な空気を家庭に撒き散らし、俺と兄貴を苦しめ続けた親父。

梨々香にだけは、絶対にあんな想いをさせたくない。その一心で、山下への気持ちを断ち切るために転職にまで踏み切ったのだ。

でも…。

酒が入っていたからといって…あんなメールを送ってしまった時点で、僕はすでに親父と同類なのかもしれない。

今回のことで、いやというほど痛感した。

年甲斐もない恋愛ごっこに興じてしまう最低な男の遺伝子は、間違いなく僕の中に存在するということを。

いつかこの呪縛のような遺伝子に翻弄されて、本当に梨々香を傷つけてしまったら…。

恐ろしさに足元がぐらついたような気がして、僕はすがるように梨々香の長い髪の毛をそっと撫でた。

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