Love Letters Vol.6

「妻の前でも、他の女のことを考えてしまう」浮ついた男を改心させた、ある出来事

梨々香のことを大切にしたい。これまでずっとそう思ってきた。

だが今は、改めて思う。

梨々香を想うのと同じように、優花里も大切にしたい。

妻と、死ぬまで一緒にやっていきたい、と。

予想外の妊娠で結婚に至った僕と優花里は、恋人らしい時間をほとんど持てなかった。もちろん、優花里にだって恋をしたし、僕なりに妻のことは大切にしてきたつもりだった。

けれど、きちんと「愛している」と伝えたことは、もしかしたら一度も無いかもしれない。

僕は歩みを進めながら、優花里に呟く。

「僕も優花里にラブレターを書こうかな」

親父の手紙に、溢れるほどしたためられていた「愛してる」の言葉。親父みたいには絶対にならないと決めていたけれど、これは真似してもいいな。そんなふうに、思いつきで口にしただけだった。

でも、僕の言葉を聞いた途端。優花里は歩いていた足をピタッと止める。

そして、僕の目を寂しそうに見つめながら言ったのだ。

「ラブレターは、いらないよ…」

青白い街灯が、優花里の瞳に反射している。凍えそうに寂しそうな優花里の瞳。

その瞬間、僕は理解したのだ。

僕が山下に恋をしたことに、妻は気づいていた。

―お父さんね、やましいことがあると、こうして手紙をよく書いてよこしたのよ…。

母さんの言った言葉が、頭の中で再生される。優花里の頭の中でもきっと、同じセリフが再生されているのに違いなかった。

しばらく優花里と見つめ合うと、僕はゆっくりと頷く。

「分かった。絶対に、優花里にラブレターなんて書かない」

それを聞いた妻も、真剣な表情で頷く。

僕たちはどちらからともなく、本当に久しぶりに、しっかりと手を繋ぎあった。


あたたかな気持ちが胸に溢れる。親父が僕にかけた遺伝子の呪いが、今、ゆっくりと自信に変化していく。

浮気性だと思っていた親父は、ちゃんと母さんを愛していた。

いい歳になっても、恋愛をやめられなかった親父。
その一方で、ずっと母を愛し続けた親父。

もし僕が、親父のよう......


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