200億の女 Vol.18

「あなたのことが許せない」。夫から秘密を打ち明けられた妻の、葛藤と決断とは

騙されたのは女か、それとも男か?
「恋」に落ちたのか、それとも「罠」にはまったのか?

資産200億の“恋を知らない資産家の令嬢”と、それまでに10億を奪いながらも“一度も訴えられたことがない、詐欺師の男”。

そんな二人が出会い、動き出した運命の歯車。

詐欺師の小川は智の夫の裏切りをきっかけに、智が好きだと告白する。さらに父親までも巻き込んで智に揺さぶりをかけ…それにより、智はついに夫との離婚を宣言してしまう。そしてそのタイミングで詐欺師から愛の告白をされた智は、心が揺れている自分に気がついたが…。


ガコンっ、と、車が大きく揺れ、というより跳ねた。

前に座っていた小川さんが、大丈夫でしたか、と声をかけてくれたのは、私が反射的に口にしてしまった小さな悲鳴のせいだと思うと恥ずかしくなり、平気な顔を作って大丈夫だ、と答えたが、またすぐに大きく揺れ、声が漏れそうになり慌てて口を押さえた。

日が昇る前にガーナの首都アクラを出発してから、1時間半。

うたた寝しそうになる度に、ガタっ、ガタっ、と車が揺れて眠れず、その揺れに慣れ始めていたけれど、いっそう揺れが大きく激しくなってきて、私は自分の右上、窓の上についていたハンドルを握りしめた。

「ここから、舗装されていない道路が続くんです。すみません」

現地スタッフの日本人男性が、別に彼が悪いわけでもないのに、申し訳なさそうに言い、ガーナ人のドライバーにもっと丁寧に走れないか、と英語で伝えた。ドライバーは、鼻歌を止め、YES、YES!と陽気に答えたものの、その後も揺れは変わらなかった。

公用語が英語とはいえ、ガーナは約80の言語が使われている多言語国家だそうだ。現地スタッフの英語が、ドライバーにきちんと伝わったかどうか分からないな、と思いながら、窓の外を見ると、土の道路に、ボコボコと、それなりに大きな穴が空いている。

視察する工場に行くために、5、6時間ほど走ることになります、と言われてワゴン車に乗り込んだから、まだ、3分の1も来ていないことになる。

流れていく窓の外には、ようやく昇り始めた太陽。薄暗さを溶かしていく、圧倒的なオレンジ色を車内のスピーカーから流れてくる民族音楽の中で眺めていると、その異世界感に感覚が麻痺していきそうになる。

「智さん」

小川さんに呼ばれて、私は車内に視線を戻した。

「車酔いしない体質だとおっしゃってましたけど、気持ち悪くなったらすぐに言ってくださいね。智さん、そういうの我慢しそうだから。我慢は絶対ダメですよ」

小川さんに、智さん、と呼ばれることにも、時々敬語が崩れることにも、もう抵抗を感じない。私は、分かりました、と頷くと、引き寄せられるように、また、窓の外に視線を戻した。

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