東京男子図鑑 Vol.6

年収200万ダウン。慶應卒のエリート商社マンが、金と肩書きを捨てて飛び込んだ新天地

一馬に指定された場所は、神宮前の裏通りにある、オフィスとは名ばかりの手狭な雑居ビルでした。

聞けば現在、社員は3人だけ。経営全般を取りしきるCEOの一馬の他は総務経理などの事務担当と、信頼できるエンジニアのみ。少数精鋭もいいところだが、どうにかここまでやってきたのだといいます。

大手総合商社勤務とはいえ平社員の僕を、一馬がどこまで買ってくれていたかは正直わかりません。ただ世間が注目してくれている今、さらなる事業拡大が急務。そんなタイミングにちょうどよくやってきた僕を、彼は熱烈に口説いてくれました。

僕を、一馬の右腕となって実務を回すCOOとして迎え入れたいと言うのです。

この僕が、COOになる。

パッと視界が開け、目の前に光り輝く道ができた気がしました。

もちろんすぐには決断できず一旦は返事を保留にしたわけですが、キラキラと未来を語る一馬の瞳が、家に戻ったあともずっと僕の脳裏に焼き付いていました。


運命とは、不思議なものです。

たとえ無意識であったとしても、自らの意志が向く方に自然と動いていく。思えばこのタイミングで二度目の駐在話があったことも、偶然ではないのかもしれません。

そう、一馬に熱烈スカウトを受けてから間もなく、僕は上司から転職の意志を決定的なものとする打診をされてしまうのです。

「近いうちに、再び駐在の可能性がある」
「行き先はコンゴが濃厚」

「まあ、頑張れ」と言って肩を叩かれたとき、僕は上司の意図とは真逆の決意を固めました。むしろ新天地に向かい、背中を押されたように感じたのです。

転職にあたり、一馬が僕に提示した報酬は年収850万円でした。

当時僕の年収は1,050万円ほどでしたから、200万円のダウンです。

しかし創業したばかりで、彼自身の給料もさほど多くないであろう一馬の台所事情を理解し、僕はその条件を承諾することにしました。

強がりじゃなく、不思議とお金のことは気にならなかったんです。


−ここで一旗揚げてやる…!

まるで漫画かドラマの主人公にでもなったように、沸き立つ高揚に酔いしれていました。

そうして僕は、武者震いとともに、10年勤めた総合商社を退職したのです。


▶NEXT:10月26日 土曜更新予定
35歳。商社マンの肩書きを捨てた......


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