わたし、9時に出社します。 Vol.3

「女は、お茶汲みが当たり前だった…」総合職がなかった時代の話に、衝撃を受けた23歳女

「失礼いたします。」

扉をノックし、声を掛ける。

この一連の動作は、昨年の就職活動中以来であったため、その当時の気持ちを思い出して、楓は少し緊張を感じていた。

「はい、どうぞ。お入りになって。」

中から、女性の柔らかな声が聞こえる。

楓の入社後フォロー面談を担当するのは、50代前半に見える女性社員だった。所定の研修を受講し、カウンセラーとしての資格を保有しているらしい。

「はじめまして、本日あなたの面談を担当することになった遠藤です。入社32年目。54歳で、あなたのお母さまと近しい年齢くらいかしら?今日はどんなことでもいいから、お話してね。」

遠藤がそう自己紹介をしてきた。確かに、楓の母親は52歳であり、遠藤とほぼ同年代である。

楓は、遠藤の自己紹介を聞きながら、「お母さんと同じくらいの世代の女性で、いわゆる日本の大手企業に勤めている人と2人で話すことなんてなかったな」とぼんやりと考えていた。

楓は高校まで、生まれ育った富山県で過ごしてきた。早稲田大学に合格したことが上京のきっかけだったのである。

楓が中学生になった頃から、母親は実家近くのスーパーにてパートをしていた。いわゆるオフィスで働く女性というものは、あまり身近ではなかった。

楓も、遠藤に対して自己紹介をした。同期の明日香や詩織と、面談についてLINEで話した結果、「守秘義務ありとはいえ、人事部門に話した内容が伝わっても問題ないくらいの話をしよう」というのが、3人の意見であった。

そのため、楓は当たり障りのない内容を話す。

「桜田楓と言います。資産運用部門にて瀧本さんという方にOJTを担当して頂きながら業務にあたっています。」

「そんなに固くならないで大丈夫よ。桜田さんはお仕事どうかしら?何か悩み事はない?」


楓が緊張しているのだと思った遠藤は、そう返事をする。

「悩みは…特にないです。」

初対面の人と面談したところで何か変わるのだろうかと思いながら、楓は呟いた。

30秒程の沈黙が流れた後に、遠藤が楓に尋ねてくる。

「桜田さんは、総合職採用よね?今は女の子だから一般職なんてことはないのよね。」

「え…?はい、そうですけど。」

遠藤が突然採用区分を尋ねてきたので、楓は不思議に思いながら返事をする。

「そうなのね。いい時代になったわねぇ。」

まるで独り言のように、遠藤は噛み締めるように呟いた。

【わたし、9時に出社します。】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo