200億の女 Vol.17

「あなたが好きだ」。夫以外の男から、1番欲しかった言葉を囁かれた女の心境

騙されたのは女か、それとも男か?
「恋」に落ちたのか、それとも「罠」にはまったのか?

資産200億の“恋を知らない資産家の令嬢”と、それまでに10億を奪いながらも“一度も訴えられたことがない、詐欺師の男”。

そんな二人が出会い、動き出した運命の歯車。

智はついに夫との離婚を宣言してしまう。詐欺師を唯一の味方と信じはじめた智の運命は…!?


大輝さんとは、離婚しようと思います。ご存知の通り…私には、優秀な弁護士が付いていますから、ご心配なく」

離婚とはそんなに簡単にできるものではないぞ、という父の声を背中に受けながら、私は父の前から去った。

ドアを開けてくれた秘書の氷室さんに、なにか声をかけられたけれど、私は止まらず、社長室を出た。

脱力感を覚えながら、なんとか歩く。このフロアに上がれるのは、直通のエレベーターだけ。無駄に長い廊下を歩きながら、エレベーターの方向に近づくにつれて、場違いな、キャッ、キャッ、という笑い声が近づいてくる。

セキュリティゲートにパスをかざして通りすぎ、エレベーターホールに入ると、その声の正体が分かって、私はさらに脱力した。

「神崎さん!」

―待ってた、の?

心配そうな顔で、私に近づいてきた小川さんの奥で、受付デスクの女性スタッフが立ち上がり、エレベーターのボタンを押してくれた。

さっきまで、小川さんと談笑していたことが、私にバレて気まずいのだろう。私に軽く会釈した後は俯き、目をそらした彼女からは、動揺が感じられる。

―氷の秘書部が…珍しい。

社長室はこのビルの最上階、28階にある。このフロアにはVIP用の応接室と、コマーシャルなどの映像を試写する試写室があるのだが、セキリュリティは厳しい。

12階で、社長室直通のエレベーターに乗り換え、エレベーターを降りると、ホテルのフロントデスクのような受付がある。そこで秘書部のスタッフからパスをもらわなければ、たとえ社員であっても、その先のセキュリティゲートを通ることができない。

私はゲートのパスを持っているけれど、常にそこを通れる社員は限られていて、ゲートの横には警備スタッフが立っている。そのチェックは行きだけではなく、帰りも厳しく、用が済んだらすぐに帰らされる。

その追い立てが厳しいのが、父直属の秘書部のスタッフで、融通もきかせてくれないことから、社内では「氷の秘書部」と呼ばれているのに。

「あの…大丈夫でしたか?」

心配そうに、その長身を丸めて私を覗き込んでくる、この小川さんは…どうやって…「氷の秘書部」を懐柔し、歓談し、私が来るまで、ここに留まることを許されたのだろうか?

「社長とは話がつきましたから、ご心配なく」

秘書部のスタッフの前で、意味深な会話も振る舞いも避けてほしい、という意思表示のために、私は小川さんに、淡々と事務的に答えた。これ以上、変な噂が回るのは困るのだ。

エレベーターが到着して、乗り込むと、後に続いた小川さんとは、少し離れて立った。小川さんは、そんな私を気にするようすもなく、見送る女性スタッフに、小さく手を振った。女性スタッフが、驚いたような照れたような笑顔になったところでドアが閉まる。

―呆れた。

この人は、本当に女性にマメな人なのだと、最早、感心すらしてしまう。すると、エレベーターが動きだしたタイミングで、小川さんは、すみません、と小さく呟いた。

私が彼を見上げると、悲しそうに続けた。

「待ってたの、ご迷惑そうですね…すみません。でも、俺…」

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