女たちの選択~その後の人生~ Vol.10

「子どもはまだ?」デリカシーのない発言に苦しめられた10年…。38歳女の決断とは

「結婚したら子どもを作るのが当たり前。私も若い頃は、その価値観を特に否定していませんでした。

ただ10年前は“妊活”なんていう言葉も今ほどメジャーではなかったし、私自身も夫も何がなんでも子どもが欲しい!というわけでもなかったので、のんびり構えていたんですよね」

しかし結婚して2年が経ち、加奈も30歳を超えたあたりで、夫婦間に自然と「あれ…?」という空気感が漂い始めたという。

というのも、夫婦の営みは定期的にあるのに、いっこうに妊娠する気配がないのだ。

「積極的に子作りをしている人は、基礎体温なんかも当たり前に測って、病院にも通ったりしている。ただ私、自分の性格的に、そういうのやり始めると絶対結果を出さなきゃ!って神経質になってしまう気がしたし、何より行為自体に色気がなくなってしまうのが嫌で…それであえてしてこなかったんですよ。

でもやっぱり、それだとなかなか妊娠しない。夫は私に一切何も言ってきませんでしたが、さすがに私も心配になって、一人で病院に行ってみたんです。そうしたら…」

加奈はそこまで言うと一度言葉を切り、そっと小さく唇を噛んだ。

「あまり話したくないので詳細は控えますが、一言で言ってしまうと不妊だったんです、私。妊娠しない理由がちゃんとあった。

もちろん定期的に通院して治療すれば可能性はあります。でもそれは相当なお金と時間と労力のかかる話。自分一人で決断できる話ではないので、その日の夜、夫にすべてを話すことにしました」

妻の告白に、夫の反応は…


「僕は加奈ちゃんが幸せならそれでいい。本心からそう思ってるって。夫はそう言ってくれて…私、本当にこの人と結婚してよかったと思いました」

優しく愛の溢れた夫の言葉に感謝し、加奈はじっくりと、自分が幸せでいられるのはどちらの道なのだろうと考えた。

つまり、不妊治療にお金・時間・労力を投入して子どものいる人生を望むのか、それともこのまま夫婦二人だけの人生を楽しむのか。

「考えれば考えるほど何が正しいのか、どちらが正解なのかわからなくなりましたね。当たり前です。…正解なんてないんだもの。

結局私は最終的に、不妊治療はしないという選択をしました。不妊治療をしている自分を想像したら…心が灰色に曇ったから。一方で、夫婦二人だけの人生を思い描いたら、それはそれで楽しそうじゃんって純粋に思えたからです。

夫にもそう伝えたら、俺たちなら二人でも絶対楽しいから大丈夫って。本当にいい夫に恵まれました」

加奈はそう言って、夫への感謝をかみしめるように頷いた。

こうして加奈が“産まない”選択をしたのは、32歳の時である。人知れず葛藤し、ようやく出した結論だ。

しかし世間は、そんな加奈を放っておいてくれなかった。

【女たちの選択~その後の人生~】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo