2019.10.16
狂気的なカノジョ Vol.1「紗奈、俺と初めてしゃべったのっていつか覚えてる?」
付き合いはじめた頃、航平にそう聞かれたことがあった。記憶力に自信のある紗奈は自信を持ってこう答えた。
「いつって、あの会社の飲み会のときでしょ?」
航平と知り合ったのは、ちょうど1年半前のこと―。
営業部で働く彼と、会社の打ち上げで一緒に飲んだときだった。
会話が盛り上がっていく同僚たちからは離れて、端の席で静かに過ごしていた紗奈のとなりに航平がやってきたのだ。
人見知りの紗奈は初め緊張してしまったが、彼の軽快なトークにどんどん惹かれていったのを覚えている。
「正直、すごく積極的な人だなって思っちゃった」
そう答えると、航平は手を叩いて笑う。
「俺は思い立ったら全力だから」
その打ち上げのあと2次会に誘われ、航平たち年下のグループに混じって終電まで飲み続けた。いつも1次会で帰宅していた紗奈にとって、それは小さな冒険のようで久しぶりの楽しい夜だった。
連絡先を交換してその日は別れたのだが、翌日から頻繁に航平からLINEが来るようになり、社内でも彼はよく紗奈に声をかけるようになったのだ。
仕事の接点はそれほどないはずなのに、電話やメールでいい用件もわざわざ下の階にいる紗奈に直接伝えにくる。
―正直、彼の情熱に圧倒されちゃってたな。
さすがの紗奈もこれは彼からのアプローチであることを悟ったが、まったく嫌な気はせず、むしろ嬉しいと感じていた。
それから航平から誘われて何度か2人で飲みに行くと、ある夜彼から「付き合ってほしい」と言われたのだった。
「でも、どうして私を好きになったの? 年上だし、美人でもないのに」
それがずっと疑問だった紗奈は、思い切って航平に聞いてみた。すると彼は「紗奈は覚えてないかもしれないけど」と前置きをして、こう告白した。
「俺が前に会社の階段で分厚い書類の束を落としちゃったことがあってさ。そのとき、偶然通りかかった紗奈が一枚一枚、俺と一緒に拾ってくれて、本当に優しい女性だなって思った。実はあのときから気になってたんだよ」
そう言われてから、確かにそんなことがあったかもしれないと紗奈は思い出した。でも自分にとって当たり前の行動をしただけで、そんな印象に残ってる出来事だったなんて夢にも思っていなかった。
―航平の方が、私よりも何倍も優しいのに。
きっとこれは運命なのだと紗奈は思った。間違いなく航平は運命の人だからこそ、お互いが自然と惹かれ合った。そこに理由なんていらない。
◆
ー今日、家に行ってもいい?
ー俺ちょっと遅くなるから、先に家に行ってくれていいよ。
美雪とランチをした日の夕方、仕事が一息ついたときにそう航平にLINEを送る。
合鍵を持っている紗奈は、渋谷のオフィスを出て、彼のマンションがある代々木まで電車に乗る。夕飯を作るために駅前のスーパーに寄り、それから彼のマンションに向かった。
キッチンで夕食の用意をしていると、ドアの音がして航平が帰ってきたのがわかった。紗奈は笑顔で迎えようと玄関に向かう。
航平は「疲れたー」と言いながらスーツの上着を脱ぎ、ネクタイを緩めながらキッチンの方にちらりと目を向けた。
「ご飯作ってくれてたの? ごめん、俺食べてきちゃった」
「あれ、今日って仕事じゃなかったの?」
航平は、視線を合わせないままこう答えた。
「仕事だったよ、でも帰りにお腹が空いちゃってさ」
その言葉に、一瞬紗奈は動きを止めて上機嫌な航平の背中を見た。
―いつも、食事をしてくるときは、たいてい連絡くれるのに...。誰かと一緒だったのかな。
それが気になったが、聞いたら心が狭い女だと思われるかもしれない。
紗奈は問いかける勇気を持てないまま、笑顔を崩さずに彼の上着をハンガーに掛けた。
まだこの時は、この”小さな不安”が、彼女の運命の歯車を狂わせるきかっけになるとは、想像もしていなかった。
▶Next:10月25日 金曜更新予定
航平と美雪の間に何か秘密があるのか? 次回、恐るべき美雪の本性が明かされる
※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。
【狂気的なカノジョ】の記事一覧
2020.01.10
Vol.14
「慰謝料で解決したと思わないで!」離婚してもなお、元夫を追い詰める女の計画とは
2020.01.09
Vol.13
泥沼離婚の代償は慰謝料だけじゃない!?いよいよ明日で最終話!「狂気的なカノジョ」全話総集編
2020.01.03
Vol.12
“離婚届”が突然送られてきた。夫への復讐を誓う、女の執念
2019.12.27
Vol.11
「重罪なのよ!」人の夫を誘惑する、26歳“欲しがり女”の顛末
2019.12.20
Vol.10
「尾行されてた?」妻の出張中、女と旅行を楽しむ男を現実に引き戻した着信
2019.12.13
Vol.9
「怖い・・・!」結婚1週間で男がドン引きした、妻から届いたLINE
2019.12.06
Vol.8
「彼を略奪したい」結婚式当日に花嫁を絶望に陥れた、26歳女が仕掛けた罠
2019.11.29
Vol.7
「結婚さえすれば…」彼の女遊びに目をつぶり、結婚式当日を迎えた花嫁の目論見
2019.11.22
Vol.6
「セカンドでもいいから...」出張中に婚約者がいる男にせまる、26歳女の略奪計画
2019.11.15
Vol.5
「え、彼にボディータッチしてた?」ホームパーティ中、笑顔の下で錯綜する女たちの本音
おすすめ記事
2024.04.04
男と女の東京ミステリー
「え…別れたいの?」29歳証券マンが動揺。同棲中の彼女が見せた“不穏なサイン”とは?
- PR
2024.04.16
先輩美女と4回目のデート中。「今夜こそ家に誘いたい…!」と狙う男を勝利に導いたあるアイテムとは
2021.03.04
マテリアル夫婦
マテリアル夫婦:女優と結婚した35歳起業家。日本一の”勝ち組男”が新婚早々恐怖を感じたワケ
2015.10.04
汐留タラレバ娘
汐留タラレバ娘Vol1:陳列棚の奥へと追いやられる、34歳独身女3人
2022.09.16
タクシー・ドライバー 〜柊舞香〜
「もういい。1人で帰って」同棲中の彼女をタクシーに残して、去った彼。怒りの理由とは?
2022.10.27
東京レストラン・ストーリー
「ここ、来たことある…」彼が気合を入れて選んでくれたお店、元彼との思い出の場所だったら…
2020.11.13
黒ずきんちゃん
「奥さんが傷ついているので、やめてください」会社に届いた一通のメールで、女の日常が壊れ始め…
2020.01.11
結婚3年目の危機
「本当はずっと、負担だった」掃除も料理も完璧な良妻に対する、男の意外な本音
2022.09.03
なんとなく、DINKS
なんとなく、DINKS:「子どもはまだ?」の質問にうんざり!結婚3年目、32歳妻の憂鬱
2018.07.31
デスパレートな2人
「同棲しない?」交際1ヶ月、秘密の社内恋愛中の男から受けた提案。その衝撃的な理由に揺れる女心
東京カレンダーショッピング
『秋田かまくらミート』:秋田を代表するブランド牛「秋田由利牛」!サシの美しい上質なしゃぶしゃぶ用サーロイン
『肉のABCフーズ』:黒トリュフ塩付!牛タン&A5ランク黒毛和牛を使った極上ハンバーグ
『パンツェロッティ』:具材ごろごろボリューミー!フレッシュな野菜と肉感満載のフライドピッツァ
『HAL YAMASHITA 東京』:シルクのようななめらかさ!冷え冷えトロリの新食感"ウォーターチョコレート"
『レザンファンギャテ』:しっとりと濃厚で、コクのあるニューヨークスタイルのチーズケーキ
『ル・ボヌール 芦屋』:しっとりサクサク!フリーズドライ苺にホワイトチョコをたっぷりと浸透させた新感覚スイーツ
ロングヒット記事
2024.04.12
三人の男たち~夫婦の問題~
広尾に住む、共働きエリート夫婦。新婚当初から寝室を別にしたけれど、ある問題が…
2024.04.14
Editor's Choice~life style~
無難になりがちな通勤着を格上げする、大手百貨店のコンシェルジュサービス2選
2024.04.09
Editor's Choice~fashion~
ディオールの新作ローファーに、彼女も思わず目を留める。春の大人デートは1点豪華主義でキメる!
2024.04.11
Editor's Choice~beauty & wellness~
「ZARA」から新しくヘアブランドが誕生!髪のお悩みを解決してくれる、優秀アイテム全6品をチェック
2024.04.12
大人の週末ToDoリスト
東京にいながら世界のグルメを堪能!ベルギービールのイベント、チキンがテーマのフランス映画…今週末のイベント3選
この記事へのコメント