オトナな男 Vol.3

「私、彼氏がいるのに…」女を虜にする男が、デートの帰り際に発した一言とは

その日は、一日中何となく暗い気持ちで過ごした。なんとか業務を終え、重い足取りで渋谷駅へ向かう。悠に送ったメッセージは、既読になっていた。

「あれ、咲希ちゃんだ。お疲れ様、今帰り?」

聞き覚えのある声に体が熱くなるのを感じる。

「吉沢さん、お疲れ様です、いま帰りです」

平静を装って答えるが、自分の発した声があまりにも明るくて笑えてくる。文字起こしされたら、語尾に音符マークがついているだろう。

「今から帰るんだよね、時間ある?ちょっと飲みに行かない?」

唐突な圭太の提案に、一瞬思考回路がショートする。

「あ、はい。お付き合いさせてください」

頭はパニックに陥ったままだったが、こういういざという時はどこかで学んだ定型文が出てくるようだ。

「そんな堅苦しいこと言わないでよ、よく行くお店があるんだよ」

そう言って圭太は歩き出す。はい、と頰を赤らめながら付いてくる咲希を見て、圭太は口角を上げたようだった。



以前海斗と訪れた道を圭太と歩く。圭太は咲希のペースに合わせて歩きながら、質問を投げかけてくる。

「最近調子どう?」「楽しくやってる?」「嫌なことない?」

以前ここを海斗と歩いた時に感じた居心地の悪さは、渋谷の街のせいではなかったようだ。


圭太が咲希を連れて入ったお店は、落ち着いた雰囲気の創作串カツのお店だった。ほどよく混雑した店内では、咲希の話を中心に会話が繰り広げられていく。

咲希の緊張はいつの間にか消え、圭太との会話を純粋に楽しんでいた。ポケットで震える悠からの着信には、もはや気付きさえしなかった。

時計が23時少し前を指した頃、二人は席を立つ。

「あ、お金はいいからね」

圭太は、咲希が財布を出す前に制した。

渋谷駅までの道のりも、圭太との会話は弾んでいた。信号で立ち止まっていると、夏が始まる少し前の湿った風が吹く。その風は咲希の頭に充満する心地よい酔いを、絡め取っていくようだった。

「じゃあね、気をつけて帰るんだよ」

渋谷駅の改札をくぐったところで、圭太は別れを告げる。もう少し一緒にいたい気持ちもあったのだが、今は一人になって今日のことを冷静に振り返りたい。それほど咲希にとっては心地よすぎる時間だった。

「そういえばさ、来週の金曜空いてる?咲希ちゃんと飲むの楽しかったし、よかったらまた行こうよ」

「も、もちろん空いてます!ぜひご一緒させてください」

「ほらまた堅苦しいって。俺クライアントじゃないんだってば」

その圭太の爽やかな笑顔の裏にある大人の表情までは、咲希はもちろんまだ読み取ることができないでいた。


▶︎NEXT:10月24日 木曜更新予定
圭太に二度目の食事に誘われた咲希。容姿端麗、真摯な圭太に魅了される咲希は、大人の世界に引きずり込まれることに・・・。

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