病める時も、ふくよかなる時も Vol.2

毎日カップ付きキャミとスニーカー。結婚後、女をサボっていた妻にくだされた天罰とは

「みいちゃんがそこまで言うなら、本当のことを言うよ。僕ね…もうちょっとスマートな体型の女性じゃないと、興奮しないかも」

「は…、えっ?」

ショックのあまり、美月の体が石のように固くなる。

だが誠司はなおも目尻に笑い皺を浮かべながら、世間話のように軽いトーンで言葉を続けた。

「あっ、勘違いしないでよ。もちろん、みいちゃんのことは大好き。この世の誰より愛してる大切な人だよ。でも、こんなにぽっちゃりしてたらさ、妻としては愛していても、女性としては見られないっていうか…。そうだ、可愛い可愛〜い子犬みたいな感じかな!」

「こ…子犬…?」

美月の表情が引きつっているのに気づいているのかいないのか、誠司はおもむろに、いつものように美月の体をギュッと抱きしめる。

だが今日はさらに、歯科医らしく綺麗に爪を切りそろえた清潔な指先で…美月のウエストの肉を、まるでハンドルでも握るかのように、両手でプニッと掴んだのだ。

「でも、みいちゃんの柔らか〜い体をこうやって触るのは、これはこれで気持ちよくって癒されるんだよなぁ…。とにかく、子供の話はまた今度ゆっくり考えよう。夕飯も食べたし、今日はそろそろ寝ようよ」

パッと腕が解かれ、誠司の両手が再び美月の頬に添えられた。

「おやすみ、可愛いみいちゃん。愛してるよ」

おでこに暖かく小さなキスをすると、誠司はさっさとバスルームへと向かってしまう。1人取り残されたソファで美月は、ただ茫然自失とするしかなかった。



「それは辛い。辛すぎる」

じっくりと話に耳を傾けていた桐乃が、自身の両肩を抱きしめるようにさすりながら悲痛な声を上げる。

「でしょでしょ!?誠司さん、ひどいんだよ〜!」

美月は4杯目に突入した生ビールをあおると、ほとんどすすり泣きのような声で桐乃に恨み言をぶつけた。

「誠司さんと私、グルメサークルで出会ったんだよ。お互い食べるのが趣味なのに、誠司さんだけ太らないなんてズルくない?それにプロポーズの言葉だって、『美味しそうに食べるみいちゃんが好き。僕とずっと一緒にご飯を食べてください』だったのに…誠司さんの言うとおり一緒に食べてたらこうなっちゃっただけなのに〜!」

いくら愚痴を吐き続けても、女としてのプライドがズタズタに切り裂かれたショックは一向に薄れそうにない。

「すいませーん!この、“チーズ石焼ビビンバ”。大至急ひとつください!」

残酷すぎる回想を振り払うように、美月は店員を呼び止めて追加のオーダーを唱えた。


「だいたいさ、こんな状態の奥さん置いて遊びに出掛けちゃうなんて、結局はポルシェのことしか興味ないんだよ。そりゃ私は免許すら持ってないから、誠司さんのカスタムした911のことなんて全然分からないけど…」

気を取り直して愚痴の続きをこぼしはじめた美月だったが、その瞬間、桐乃がこちらに白い目を向けていることに気がついた。

「な…なに?」

恐る恐る問いかけると、桐乃はさらに眉をひそめる。

そして、大きなため息を一回つくと、呆れたように美月に向かって言った。

「なんか私…誠司さんの気持ち分かる気がする…」

【病める時も、ふくよかなる時も】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo