森脇慶子の「旬カレンダー」 Vol.14

ニギョウ

仁行

夏の食卓に涼を添える、雅な味“じゅんさい”

蓴菜そばは、¥8,640コースの一品。鰹を軽く聞かせた冷たい出汁はさっぱりとした関西風。汁物代わりに提供される。

ガラスの器に反射するかのように、透明感のある輝きを見せるゼリー状の食べ物“蓴菜(じゅんさい)”は、その見た目の涼やかさとツルンとした喉ごしの軽やかさから、夏の日本料理には欠かせぬ存在として珍重されてきた。

『万葉集』の一首にも詠まれているほど、このスイレン科の水生植物は歴史が古く、澄んだ淡水の池沼に自生していたのだろう。当時は“沼縄(ぬなわ)”の名で呼ばれていたと聞く。

食用にされるのは寒天質の皮膜に覆われた若芽と若葉の部分で、旬は6〜8月。すでに600年代には、万葉人の舌を喜ばせていたようだ。

現在、蓴菜の産地といえば秋田が有名だが、質の高さで和食の料理人に高い評価を得ているのが広島産。ここ『仁行』のご主人・石井仁氏も、広島産を好んで使うひとり。

「まず透明感がまったく違います。あんの部分も弾力があって大きい。若芽が小さいうちに摘むので生食に最適」だそうで、ご覧の「ひやかけ」も、生の蓴菜ならではのプルンとした弾みのある食感と独特のヌメリ感が、歯切れ良い細打ちの蕎麦と小気味の良いバランスを見せる佳品。目にも舌にも清涼感溢れる朱夏の雅味である

●もりわきけいこ
美味の食べ歩きに日々邁進し、綿密な取材と豊富な経験に基づく記事で定評のあるフードライター。真の旬を伝えるべく、その時期とっておきの美味にありつける名店を紹介


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