マルサンの男 Vol.4

「やってはいけないコトなのに…」。友人にそそのかされ、男に内緒で女が取った行動とは

男も女も、誰だって恋愛しながら生きていく。

だから愛するカレには、必ず元カノがいる。

あなたの知らない誰かと過ごした濃密な時間が、かつて存在したかもしれないのだ。

愛するカレは、どんな相手とどんな人生を歩んでいたのか――?

幸せな未来のため、相手の過去を知ることは、善か悪か。あなたは、愛する相手の過去が、気になりますか?

◆これまでのあらすじ

29才の南美は、6才年上の恋人・数也がプロポーズを考えていると知り、幸せの絶頂にいた。

だが同時に、これまで意識していなかった彼の2度の結婚歴がどうにも気になっていく

出張先のクアラルンプールで数也と前妻が密会する疑惑が生まれ、友達に背中を押された南美は数也の出張に同行することに。しかし疑惑は深まるばかりで……。


クアラルンプールの街並みが、どんどんと小さくなる。

離陸時の小刻みな揺れに包まれながら、南美は飛行機の窓から五日間を過ごした街を見下ろしていた。

上空から俯瞰することで、散策時には洗練された都会だと思っていた街にも、少し離れれば退廃した地区があると分かる。

―どんなに綺麗な場所でも暗部はある。

それはまるで、南美の心の内のようだ。

数也を愛し信じる心。そこに生じた、ほんのわずかな疑念。

「本当に楽しかったね。ありがとう。ついてきてくれて」

隣のシートから数也は微笑みかける。

「こちらこそ、お仕事なのにごめんね。でも私も楽しかった」

思いがけずスラスラと返事をした自分に、南美は驚いた。

どうやら数也と付き合い、安定した交際を続けていく中で、怒りや苛立ち、そして不安という感情を隠すことが上手になったようだ。

―数也さん、あなたは仕事のミーティングのフリをして前妻と密会していたんじゃないの?

渦巻く疑念を数也にぶつけなかったのは、これまでの恋愛人生を反省したからだ。

迷ったら即行動し、思ったことを口に出すことで、いつも失敗してきた。確たる証拠もないままに数也を問い詰めれば、関係が破綻するかもしれない。

愛するがゆえの行動から、愛する者を失う結果にはしたくなかった。

だから何も聞かないまま、いや、聞けないままマレーシアを発った。



「正直、数也さんのことが分からなくなりそうなの」

東京に戻るなり南美は、広尾の『ボンダイカフェ』に茉里奈と秀人を招集し、深すぎるほどのため息をついた。

「なんか、ごめんね。でも俺も正直混乱してる」

秀人もまた、ため息をつく。

会社は数也にクアラルンプール出張を命じてない、という衝撃の情報をもたらした張本人は、責任を感じているらしい。

「そう言うだろうと思って、私、いいこと考えてきた」

茉里奈は落ち着いた口調で、話に割って入った。

「私が思うに、南美は数也さんの浮気を疑ってるわけではないんじゃない?」

「うん…前の奥さんとランチしたぐらいじゃ、浮気とは言えないし…」

「南美は、数也さんのことを、もっと知りたいのよ」

「どういう意味?」

「数也さんは理想の男すぎて、裏が見えないわけ。だから不安なのよ。表も裏も全部ひっくるめて、数也さんのすべてを知れば安心するし、もっと数也さんのことを好きになるんじゃないかな?」

たしかにそれはある。南美は反射的に思った。でも…。

「でも、すべてを知るって、どうやって? 数也さんに『あなたの裏側を教えてください』なんて言えるわけないよ」

「数也さんの裏側を知る人間に会えばいいの」

「そんな人いる?」

「いるでしょ? 数也さんの元奥さんたち」

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